Corollaryは必然に。

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【ラスボス】数学夏祭り問10の解説

数学夏祭りが終わって数日経ちましたがいかがお過ごしでしょうか。

私は都合によりタイムリーに参加できないことがほとんどだったのですが、ほぼすべての問題を解きました。当初はすべての問題に解説を入れようと意気込んでいましたが、圧倒的計算力が試される(ように見える)問題が多くて工夫した解説が難しく、私が今更解説しなくてもいいかな~という気分になっています。

気が向いたら数学夏祭りの総括と共にまとめて紹介しようと思います。



さて、本日は9月11日に公開された難易度マックス(?)の数学夏祭り問10の解説をしようかなと思います(激遅)。

楽しい企画をしてくれた運営に感謝をしつつ、問題を見てみましょう!



この問題をみた私の感想

これこれ!こういう証明問題を望んでいたんですよ!考えないと解けないやつ!

しかも不等式ですね。誘導はついていますが、数論にあまり詳しくない私にとっては見たことのない不等式でワクワクしております。

では、証明すべき不等式を見てみましょう。

\begin{equation*}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < \pi(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \frac{1}{79^{3}} e^{79}\end{equation*}

謎の数値e^{79}が代入されているため、どんな関数で評価すればいいか上手く隠しているように見えますね。

ところで、両端の値なんですが、-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79}めっちゃ小さい数で、\frac{1}{79^{3}} e^{79}めっちゃ大きい数じゃないですか?「1+1の計算結果は、マイナス1憶から1憶の間にあります!」みたいな、ガバガバ不等式に見えます。一体何なんでしょう。



問題の観察はこれくらいにして、証明を考えていきます。私の思考の流れを重視した解説になります。それではどうぞ。


私の解説

証明の方針を決めよう

証明すべき不等式は

\begin{equation*}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < \pi(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \frac{1}{79^{3}} e^{79}\end{equation*}

です。これを証明するために何を証明すればよいかを見極めることは非常に重要です。今回は不等式

\begin{equation*}f(x) < \pi(x) < f(x)+\frac{x}{(\log x)^{3}}\quad(x > 10^{10})\end{equation*}

が用意されているので、これを使って証明できないかを考えます。

そこで、この不等式の各辺に\operatorname{Li}(x)を引くと、

\begin{equation}f(x)-\operatorname{Li}(x) < \pi(x)-\operatorname{Li}(x) < f(x)-\operatorname{Li}(x)+\frac{x}{(\log x)^{3}}\quad(x > 10^{10}) \label{1}\end{equation}

となり、証明したい不等式に近い形になることが分かります。

これにx=e^{79}を代入すれば、さらに見通しがよくなるのですが、この不等式はx>10^{10}に対して成り立つ不等式なので、代入する前に
\begin{equation*}
e^{79} > 10^{10}
\end{equation*}かどうかの確認をしましょう。これは10< 2^4< e^4というざっくり評価を考えることで
\begin{equation*}
10^{10} < (e^4)^{10} = e^{40} < e^{79}
\end{equation*}となることが分かります。

ということで、\eqref{1}にx=e^{79}を代入してみましょう。

\begin{equation*}f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \pi(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})+\frac{e^{79}}{79^{3}}\end{equation*}

お、\frac{e^{79}}{79^{3}}という見たことのある数が出てきましたね。証明したい不等式に出てくる数です。

ということは、(都合よく考えて)

\begin{equation}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < 0\label{2}\end{equation}

を証明することができれば、証明すべき不等式が得られますね。

証明の方針が決まりました。\eqref{2}を証明することを目標に考えていきましょう!


証明開始:とりあえずヒント探し

ここでf(x)\operatorname{Li}(x)の定義を確認しましょう。

\begin{align*}
f(x)&=\frac{x}{(\log x)^{3}}\left( (\log x)^{2}+\log x+2\right)\\
&=x\left(\frac{1}{\log x}+\frac{1}{(\log x)^{2}}+\frac{2}{(\log x)^{3}}\right),\\
\operatorname{Li}(x)&=\int_2^x \dfrac{1}{\log t}dt.
\end{align*}

う~ん、f(x)\operatorname{Li}(x)の関係がよく分かりませんね。よく分からなかったら微分なり積分なり色々計算してヒントを探すことが大事だと思います。

私はf(x)微分してみました。

\begin{align*}
f^{\prime}(x)
&=1\left(\frac{1}{\log x}+\frac{1}{(\log x)^{2}}+\frac{2}{(\log x)^{3}}\right)+x\left(-\frac{1}{x(\log x)^{2}}-\frac{2}{x(\log x)^{3}}-\frac{6}{x(\log x)^{4}}\right)\\
&=\frac{1}{\log x}-\frac{6}{(\log x)^{4}}\\
&=\operatorname{Li}'(x)-\frac{6}{(\log x)^{4}}
\end{align*}

うお!まじか!f(x)微分したら\operatorname{Li}(x)微分が出てきた!?これは良いヒントです。

ここでもう一度証明の方針を思い出します(一度決めた証明の方針を見失わないようにすることは大事of大事)。今は\eqref{2}を証明することが目標です。つまり、f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})の値がどうなるかが知りたいわけです。なので\begin{equation}f^{\prime}(x)-\operatorname{Li}'(x)=-\frac{6}{(\log x)^{4}}\label{3}\end{equation}としておきましょう。


微積分学の基本定理

さて、ここからどう式変形するか。

もう一度言いますが、f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})の値がどうなるかが知りたいわけです。

じゃあ\eqref{3}を積分すればいいんじゃないでしょうか?あるいは微積分学の基本定理を使うという感覚でもいいと思います。\eqref{3}を2からe^{79}まで積分すると

\begin{align}
f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})&=f(2)-\operatorname{Li}(2)+\int_2^{e^{79}}\frac{-6}{(\log t)^{4}}dt\notag\\
&=f(2)-\int_2^{e^{79}}\frac{6}{(\log t)^{4}}dt\label{4}
\end{align}

となります。f(2)は計算が面倒なのであとでやりましょう。


積分の不等式評価

しつこいですが、証明の方針を見失わないためにもう一度\eqref{2}を振り返ります。

\begin{equation}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < 0\tag{2}\end{equation}

これと\eqref{4}と見比べましょう。

あれ?-\dfrac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79}-\displaystyle\int_2^{e^{79}}\frac{6}{(\log t)^{4}}dtってそっくりじゃないですか?

この2つを上手く関連付けるためには、積分の中身を変えないような不等式評価を考えることがポイントになりそうです。

そこで、積分の中身の関数である\dfrac{1}{(\log t)^{4}}に注目します(係数の-6はあとで考えます)。\log tは狭義単調増加するので(\log t)^4も狭義単調増加であり、その逆数をとった関数\dfrac{1}{(\log t)^{4}}2\le t \le e^{79}狭義単調減少になります。つまり
\begin{equation*}
\frac{1}{(\log \color{red}{e^{79}})^{4}} \le \frac{1}{(\log t)^{4}} \le \frac{1}{(\log \color{red}{2})^{4}}
\end{equation*}という不等式が得られます(2\le t \le e^{79})。等号は常に成り立つわけではないので2からe^{79}まで積分すると

\begin{equation*}
\int_2^{e^{79}}\frac{1}{(\log \color{red}{e^{79}})^{4}}dt \color{red}{<} \int_2^{e^{79}}\frac{1}{(\log t)^{4}}dt \color{red}{<} \int_2^{e^{79}}\frac{1}{(\log \color{red}{2})^{4}}dt
\end{equation*}

となります。計算すると

\begin{equation*}
\frac{e^{79}-2}{79^{4}} < \int_2^{e^{79}}\frac{1}{(\log t)^{4}}dt < \frac{e^{79}-2}{(\log 2)^{4}}
\end{equation*}

となりました。\eqref{4}に寄せるためにそれぞれ-6をかけると、不等号の向きが変わって

\begin{equation*}
\frac{-6e^{79}}{(\log 2)^{4}}+\frac{12}{(\log 2)^{4}} < -6\int_2^{e^{79}}\frac{1}{(\log t)^{4}}dt < \frac{-6e^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}
\end{equation*}

となります。よって\eqref{4}より

\begin{equation}
\frac{-6e^{79}}{(\log 2)^{4}}+\frac{12}{(\log 2)^{4}}+f(2) < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \frac{-6e^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}+f(2)\label{5}
\end{equation}

が得られました。当初の目標であった\eqref{2}の証明までもう少しです!


ざっくり評価

まず最初に
\begin{equation*}
\frac{-6e^{79}}{(\log 2)^{4}}+\frac{12}{(\log 2)^{4}}+f(2)
\end{equation*}をみましょう。\frac{12}{(\log 2)^{4}}+f(2)という余計なものがくっついていますが

\begin{align*}
\frac{12}{(\log 2)^{4}}+f(2)
&=\frac{12}{(\log 2)^{4}}+\frac{2}{(\log 2)^{3}}\left( (\log 2)^{2}+\log 2+2\right)\\
& >0
\end{align*}

なので\eqref{5}より
\begin{equation*}
\frac{-6e^{79}}{(\log 2)^{4}} < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})
\end{equation*}が分かります。


めちゃめちゃざっくり評価

次に
\begin{equation*}
\frac{-6e^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}+f(2)
\end{equation*}かどうなるかを検証しましょう。ぱっと見\frac{-6e^{79}}{79^{4}}めっちゃマイナスなので全体でマイナスになる感じがします。そこでざっくり評価でいきます。2< e\sqrt{e}<2なので

\begin{align*}
f(2)
&=\frac{2}{(\log 2)^{3}}\left( (\log 2)^{2}+\log 2+2\right)\\
&< \frac{2}{(\log \sqrt{e})^{3}}\left( (\log e)^{2}+\log e+2\right)=64
\end{align*}

ですね(分母は小さく、分子は大きくの精神)。よってこうなります。

\begin{align*}
\frac{-6e^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}+f(2)
&<\frac{-6e^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}+64\\
&<\frac{-6\cdot2^{79}}{79^{4}}+\frac{12}{79^{4}}+64\\
&=\frac{-6\cdot2^{79}+12+2^6\cdot79^4}{79^{4}}\\
&<\frac{-2\cdot2^{79}+16+2^6\cdot128^4}{79^{4}}\\
&=\frac{-2^{80}+2^4+2^{34}}{79^{4}}\\
&<\frac{-2^{80}+2^{34}+2^{34}}{79^{4}}\\
&=\frac{-2^{80}+2^{35}}{79^{4}}\\
&< 0
\end{align*}

めちゃめちゃざっくり評価(もっと上手い評価がありそう)

ともあれ、\eqref{5}と合わせて
\begin{equation*}
f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})<0
\end{equation*}が分かりました。


結論

以上より、目標にしていた不等式

\begin{equation}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < 0\tag{2}\end{equation}

が証明できました。やったぜ!

これ以降は「証明の方針」で考えたことと同じ流れです。e^{79}>10^{10}なので

\begin{equation*}f(e^{79}) < \pi(e^{79}) < f(e^{79})+\frac{e^{79}}{79^{3}}\end{equation*}

であり、各辺\operatorname{Li}(x)を引くと

\begin{equation*}f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \pi(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < f(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79})+\frac{e^{79}}{79^{3}}\end{equation*}

となります。そして頑張って証明した\eqref{2}と合わせて

\begin{equation*}-\frac{6}{(\log 2)^{4}} e^{79} < \pi(e^{79})-\operatorname{Li}(e^{79}) < \frac{1}{79^{3}} e^{79}\end{equation*}

が証明できました。めでたしめでたし。■


まとめ

問10の問題はパッと見では難しそうなのですが、今回の証明で使ったのは「微積分学の基本定理」と「積分の不等式評価」と「ざっくり評価」だったので、高校数学で解けるように工夫された問題でした。

また、この問題の背景には素数定理がもろに関わっていると思うのですが、詳しいことは分からないので、他の方の解説を探してみたいと思います。



次回は数学夏祭りの総括と、(気が向いたら)まだ解説していない問題の解説をしようと思います!

thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )