Corollaryは必然に。

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【チェビシェフ多項式】数学夏祭り問3の“落とし穴”

自分の論理の誤りは、自身では気づきにくいと思っています。なので、何かオリジナルの証明を書いたときは、なるべく一日おいて証明を読み直すようにしています。マルコ牧師も「証明は一日つけ置きすると誤りに気づける」と言ってたし*1



さて、今日も数学夏祭りです。

前回は先に数学夏祭り問4の解説記事をあげたので、今回は数学夏祭り問3の解説です。

飛ばした理由は、投稿直前に問3の私の解答に論理の誤りが見つかったからです(答えは合ってた)。あぶないあぶない。

私と同様、誤りに気付かずに解いて、「偽りの感動」をしている方もいるかもしれません。



それでは問3を見てみます。テーマは三角関数




問題をみた私の感想

あー、知ってる知ってる。その多項式T_n(x)知ってる。チェビシェフ多項式ってやつでしょ?

この多項式を使って解けということですが、難問と謳っている割には誘導があって親切ですね。うまい式変形や飛び道具で一瞬で解く方法を縛っているのかな。でもこの問題はPCに計算させて解いてもいいリアルタイムアタック勢にとっては意味のない誘導だし、本当に必要な誘導なんだろうか?

きっと、「チェビシェフ多項式を用いた解法を楽しんでほしい」という作問者の願いが込められているのだと思います。

あと、Kに出てくる\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)の「79」ね。そういえば問1でも79が出てきたな。作問者は79が好きなのか、それとも何かのメッセージなのか。

最終的に[|\log_2|K||]を求めよということですが、Kは絶対値が1以下の数を40個掛けたものなので\log_2|K|はマイナスになりそうですね。さらに絶対値をつけて、ガウス記号[\cdot]も付けて答えよということは\log_2|K|の値が整数にならない可能性が。だとしたら面倒だな。



感想はこのくらいにして、実際に解いていきましょう。


準備:チェビシェフ多項式

まずはチェビシェフ多項式がどんなものだったかを思い出します。
\begin{equation*}
\cos(n\theta)=T_n(\cos\theta)
\end{equation*}式の形から、\cos(n\theta)\cos\theta多項式で表したものと見ることができます。例えば
\begin{align*}
\cos1\theta&=\cos\theta\\
\cos2\theta&=2\cos^2\theta - 1\\
\cos3\theta&=4\cos^3\theta - 3\cos\theta
\end{align*}なので
\begin{equation}
\left.
\begin{array}{lll}
T_1(x)&=&x\\
T_2(x)&=&2x^2 - 1\\
T_3(x)&=&4x^3 - 3x
\end{array}
\right\}\label{1}
\end{equation}が得られます。

ではT_n(x)はどのようにして表せるのでしょうか。「知ってる知ってる」と言いましたが、漸化式は忘れてしまったのでT_n(\cos\theta)を計算します。

\begin{align*}
T_n(\cos\theta)&=\cos(n\theta)\\
&=\cos( (n-1)\theta + \theta )\\
&=\cos( (n-1)\theta )\cos\theta - \sin( (n-1)\theta )\sin\theta\\
&=\cos\theta\cos( (n-1)\theta ) +\frac{1}{2}\left( \cos(n\theta) + \cos( (n-2)\theta ) \right)\\
&=\cos\theta\;T_{n-1}(\cos\theta) + \frac{1}{2}(T_n(\cos\theta) + T_{n-2}(\cos\theta))
\end{align*}

よって右辺に出てきたT_n(\cos\theta)の項を移項して整理すると

\begin{equation*}
T_n(\cos\theta) = 2\cos\theta\;T_{n-1}(\cos\theta) - T_{n-2}(\cos\theta)
\end{equation*}

となります。よって

\begin{equation}
T_n(x) = 2xT_{n-1}(x) - T_{n-2}(x)\label{2}
\end{equation}

という漸化式が得られました(n\ge3)。この式は後で使います。


誤った解答

まずは、私が最初に考えた「誤った解答」を紹介します。「間違い探し」をするつもりで、どこが誤っているのかに注意して読んでいただければと思います。


誤った解答

Kの中に\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)が出てくるのでT_{79}\left(\cos\left(\dfrac{2k-1}{79}\pi\right)\right)を計算してみます。

\begin{align*}
T_{79}\left(\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\right)&=\cos\left(79\cdot\frac{2k-1}{79}\pi\right)\\
&=\cos( (2k-1)\pi )\\
&=-1
\end{align*}

つまり、x=\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)k=1,2,\ldots,79)はT_{79}(x)+1=0の解であることが分かります。

ところでT_{79}(x)多項式ですが、何次式でしょうか?\eqref{1}を振り返るとT_n(x)n次式であることが予想されますが、\eqref{2}により

\begin{equation*}
T_n(x)=2x(x\text{の}(n-1)\text{次式})+(x\text{の}(n-2)\text{次式})
\end{equation*}

となっているため、帰納法によってT_n(x)xについてn次式であることが分かります。

つまりT_{79}(x)+1=0は79次方程式であって、x=\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)k=1,2,\ldots,79)が解となっています。79次方程式は解が高々79個であったから、a_{79}T_{79}(x)x^{79}の係数とすると

\begin{equation*}
T_{79}(x)+1=a_{79}\prod_{k=1}^{79}\left(x-\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\right)
\end{equation*}

因数分解ができます(ここがブレイクスルー!)。この式にx=0を代入すると

\begin{equation*}
T_{79}(0)+1=-a_{79}\prod_{k=1}^{79}\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)
\end{equation*}

となりますKに近い形が出てきた!)
補足 因数分解をせずに解と係数の関係を用いても同じ結論が得られます(むしろこっち推奨)。b_{79}b_{0}をそれぞれT_{79}(x)+1x^{79}の係数,定数項とすると
\begin{equation*}
\prod_{k=1}^{79}\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)=(-1)^{79}\frac{b_0}{b_{79}}
\end{equation*}となり、b_0=T_{79}(0)+1b_{79}=a_{79}となります。


ここで、k=41,\ldots,79に対しては

\begin{align*}
\cos\left(\frac{2k - 1}{79}\pi\right)&=\cos\left(\pi+\frac{2(k-40)}{79}\pi\right)\\
&=\cos\left(\pi-\frac{2(k-40)}{79}\pi\right)\\
&=\cos\left(\frac{79 - 2(k-40)}{79}\pi\right)
\end{align*}

となるので

\begin{align*}
T_{79}(0)+1&=-a_{79}K\prod_{k=41}^{79}\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)&&\\
&=-a_{79}K\prod_{k=41}^{79}\cos\left(\frac{79 - 2(k-40)}{79}\pi\right)&&\\
&=-a_{79}K\prod_{k=1}^{39}\cos\left(\frac{79-2k}{79}\pi\right)&&(k=1\text{スタートに変換})\\
&=-a_{79}K\prod_{k=1}^{39}\cos\left(\frac{79-2(40-k)}{79}\pi\right)&&(\text{逆順に掛けても同じ})\\
&=-a_{79}K\prod_{k=1}^{39}\cos\left(\frac{2k - 1}{79}\pi\right)&&(K\text{に1個足りない?})\\
&=a_{79}K^2&&(\cos\left(\frac{2\cdot40-1}{79}\pi\right)=-1)
\end{align*}

となります。

あとはT_{79}(0)T_{79}(x)の定数項)とa_{79}を求めればよいことになります。\eqref{2}にx=0を代入すると
\begin{equation*}
T_{n}(0)=-T_{n-2}(0)
\end{equation*}となるため、T_{79}(0)=(-1)^{39}T_{1}(0)=0が分かります。

また、\eqref{1}をみるとT_n(x)x^nの係数は2^{n-1}となることが予想でき、これを帰納法で証明しましょう。n=1,2のときは明らかです。n\ge3については1,\ldots,n-2,n-1まで正しいと仮定し、

\begin{equation*}
T_{n-1}(x)=2^{n-2}x^{n-1}+(x\text{の}(n-2)\text{次式})
\end{equation*}

とすると\eqref{2}により

\begin{align*}
T_n(x)&=2x(2^{n-2}x^{n-1}+(x\text{の}(n-2)\text{次式}))+(x\text{の}(n-2)\text{次式})\\
&=2^{n-1}x^n+(x\text{の}(n-1)\text{次式})
\end{align*}

となります。したがって、T_n(x)x^nの係数は2^{n-1}、とくにT_{79}(x)x^{79}の係数はa_{79}=2^{78}となることが分かりました。

したがってK^2=\dfrac{1}{2^{78}}となり、
\begin{equation*}
|K| = \frac{1}{2^{39}}
\end{equation*}が求まりました!よって
\begin{equation*}
[|\log_2 |K||] = [|-39|]=39
\end{equation*}が答えです。



…それ本当???


どこが誤りなのか

チェビシェフ多項式を巧みに利用した面白い解答に見えますが、残念ながら誤りがあります。見つかりましたでしょうか?

実はこの部分が間違っています:

79次方程式は解が高々79個であったから、a_{79}T_{79}(x)x^{79}の係数とすると

\begin{equation*}
T_{79}(x)+1=a_{79}\prod_{k=1}^{79}\left(x-\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\right)
\end{equation*}

因数分解ができます(ここがブレイクスルー!)

ブレイクスルーとは何だったのか。


もう少し詳しく説明すると、x=\cos\left(\dfrac{2k-1}{79}\pi\right)k=1,2,\ldots,79)はT_{79}(x)+1=0の解となっていますが、79個の解をすべて列挙できていません!実際
\begin{align*}
\cos\left(\dfrac{81}{79}\pi\right)&=\cos\left(\dfrac{77}{79}\pi\right),\\
\cos\left(\dfrac{83}{79}\pi\right)&=\cos\left(\dfrac{75}{79}\pi\right),\\
&\vdots\\
\cos\left(\dfrac{2\cdot79-1}{79}\pi\right)&=\cos\left(\dfrac{1}{79}\pi\right)
\end{align*}が成り立つので、実質40個しか解を見つけていないため、これを79個にかさ増ししてT_{79}(x)+1因数分解を与えることは誤りです。また、T_{79}(x)+1重解をもつ可能性、つまり40個で解がすべて列挙できている可能性がありますが、そうなる自信があるんだったら証明しなさいよ!って話です。

追記 39次多項式Q(x)を用いて

\begin{equation*}
T_{79}(x)+1=Q(x)\prod_{k=1}^{40}\left(x-\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\right)
\end{equation*}

と表せば、誤りを解消できる気がしましたが、この後紹介する「本当の解答」の方が鮮やかなので、ちゃんと考えることを止めてます(それでいいのか)。


本当の解答

ではどうするか。\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)k=1,2,\ldots,40)は互いに異なっていることは確かであり、これら40個の積でKが与えられています。そこでもし、\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right) がなにかしらの40次方程式の解になっていれば、「誤った解答」の「誤り」を回避しつつ、同様の議論が適用できることが期待されます。そんな都合のいい40次方程式なんてあるんですかねぇ…?


解答

以下の事実は既知とする。

  • T_n(x)n多項式
  • T_n(x)の最高次の係数は2^{n-1}
  • nが奇数のとき,T_n(x)の定数項は0
  • nが偶数のとき,T_n(x)の定数項は\pm1

補足 \eqref{1}と\eqref{2}により,n=2m+1のときT_{n}(0)=(-1)^{m}T_1(0)=0n=2mのときT_{n}(0)=(-1)^{m-1}T_2(0)=\pm1が得られます(m\ge1)。

\theta_k =\dfrac{2k-1}{79}\piとおく(k=1,2,\ldots,40)。すると79\theta_k = (2k - 1)\pi,つまり
\begin{equation*}
40\theta_k = (2k - 1)\pi - 39\theta_k
\end{equation*}となるブレイクスルー!)。よって
\begin{align*}
\cos(40\theta_k) &= \cos((2k - 1)\pi - 39\theta_k)\\
&=-\cos(39\theta_k)
\end{align*}つまりT_{40}(\cos\theta_k)+T_{39}(\cos\theta_k)=0となるが、これは相異なるx_k = \cos\theta_kk=1,2,\ldots,40)が40次方程式T_{40}(x)+T_{39}(x)=0の解であることを表している。T_{40}(x)+T_{39}(x)の最高次の係数は2^{39}であるから

\begin{equation*}
T_{40}(x)+T_{39}(x)=2^{39}\prod_{k=1}^{40}\left(x-\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\right)
\end{equation*}

因数分解できる(真のブレイクスルー!)。x=0を代入するとT_{40}(0)+T_{39}(0)=\pm1のいずれかなので

\begin{align*}
\pm1&=2^{39}\prod_{k=1}^{40}\cos\left(\frac{2k-1}{79}\pi\right)\\
&=2^{39}K.
\end{align*}

よって
\begin{equation*}
|K| = \frac{1}{2^{39}}
\end{equation*}が得られる。したがって、求める値は
\begin{equation*}
[|\log_2 |K||] = [|-39|]=39.
\end{equation*}



いや~鮮やかな解法です。



でも、なんでガウス記号付けて答えさせたんだろう?もっと言えば絶対値も\log_2も取っ払って「Kの値を求めよ」で十分じゃない?Kの符号を決定する手間がかかるので、難問にしたければそれでいいのに。


まとめ

この数学夏祭りシリーズのコンセプトはお祭り気分で楽しく解説なのですが、解けなかった(間違えた)場合は解答までのアプローチの記録を公開することにしています。さっそく間違えましたが、いい勉強になりましたし、「チェビシェフ多項式を用いた解法を楽しんでほしい」という作問者の願いは私に届きました。いい問題をありがとうございました。


次回もがんばるぞー


thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )



数学夏祭り問4の解説はコチラ
corollary2525.hatenablog.com

*1:いやマルコ牧師って誰ぇ?(見取り図の漫才風)