Corollaryは必然に。

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ε-δ論法の疑問に回答します

もう4月なの非自明すぎる。誰だよ春を告げたの。

…ということで、入学の季節ですね。私はもう、大学の数学科を卒業してまあまあ時が経っているのですが、大学で学んだことは大切にしていきたいと思っております。


さて、今日は$\varepsilon$-$\delta$論法イプシロン-デルタ論法)について書こうと思います。


$\varepsilon$-$\delta$論法は関数の連続性収束厳密に記述するときに登場し、多くの学生が躓くと言われています。かく言う私もちゃんと理解するのにかなり時間がかかった記憶があります。

今日は私が$\varepsilon$-$\delta$論法を初めて学んだときの疑問や感想などに対し、今の自分が回答してみようと思います。ついでに皆さんの疑問も晴れたら幸いです。

ε-δ論法による連続の定義

早速ですが、$\varepsilon$-$\delta$論法を用いて関数の連続性を定義します。

定義($\varepsilon$-$\delta$論法による連続)
$I\subset\mathbb{R}$とする.関数$f:I\to\mathbb{R}$は$x = a$で連続*1であるとは,任意の$\varepsilon > 0$に対して,ある$\delta > 0$が存在し,任意の$x\in I$に対して
\[
|x - a| < \delta\implies |f(x) - f(a)| < \varepsilon
\]が成り立つことを言う.論理記号を用いると以下の通りである:

\[
\forall \varepsilon > 0\; \exists\delta > 0\; \forall x\in I \;[\;|x - a| < \delta\implies |f(x) - f(a)| < \varepsilon\;]
\]

はい、これが連続性です。高校数学のときの連続性と比べると、全然違うようにみえますね。


では、私がこの$\varepsilon$-$\delta$式の連続の定義を学んで、思ったことを書いていきたいと思います。

何言っているの?

まー、初見では何言っているのか分からない。読めば読むほど、心の中のMr.シャチホコが「何をされている方なの?」と一生呟いてくる。


なぜこれが関数の連続性を表すのかについては、図で説明するのが一番だと思います。連続って幾何学的な側面もある概念ですし、図が描けるなら描きたいですね。


それでは、以下の関数の$x=a$での連続性について考えます。


まず、値$f(a)$との誤差$\varepsilon > 0$を任意に決めます。


その$\varepsilon$に応じて$a$の周りの開区間$(a - \delta, a + \delta)$を上手く決めると…


その区間内のすべての点の$f$による行き先が、値$f(a)$との誤差にすっぽり収まります。


たとえ、このように誤差$\varepsilon > 0$を小さく取ったとしても…


それに応じて$\delta > 0$ を取り直すことで、区間$(a - \delta, a + \delta)$内のすべての点の行き先を、値$f(a)$との誤差にすっぽり収めることができます。


以後、$\varepsilon$と$\delta$のいたちごっこがずっと続く場合、「この関数は$x=a$で連続」と定義することに決めたのです。


これが$\varepsilon$-$\delta$式の連続性の定義が言わんとしていることです。


このように図で考えると、「どんどん近づく」といった感覚的な概念を上手く表現しているのが実感できるのではないでしょうか?
また、時間がある方は、連続でない関数を用意して、$\varepsilon$と$\delta$のいたちごっこがどうなるかを考えると理解が深まると思います。

「それでも定義に戻るとよく分からん!」という場合は「全称($\forall$)と存在($\exists$)を含む述語論理に慣れていないから」かもしれません。

$\varepsilon$-$\delta$論法による連続性の定義には「全称・存在・全称」の順で3つ登場します(書き方によっては最後の「$x\in I$」が省略されていることがあります)。

大学数学科1年生だと、同時並行で集合論も学ぶと思いますが、集合論の述語論理の所で苦戦していると、理解に時間がかかりそうだなと想像します。まずは

(i) $\forall x\in\mathbb{R}\;\exists y\in\mathbb{R}\;[\;x < y\;]$
(ii) $\exists x\in\mathbb{R}\;\forall y\in\mathbb{R}\;[\;x < y\;]$

のような命題の真偽の判定および証明を自信もってできるようにした方がよいかもしれません。

余談 昔、数学科1年生の微積のTAをしていたときの話です。述語論理や$\varepsilon$-$\delta$論法に関するレポートを採点しているとき、“変な日本語”が書かれた証明を一定数見かけました。
例えば、先ほどの(i)の証明だと
“任意の実数$x$に対して、ある$y:=x + 1$が存在して$x < y$となる。”
のように書かれたレポートです。違和感があるのは「ある$y:=x + 1$が存在して」の部分です。
おそらく述語論理の言い回しに囚われすぎているのだと思いますが、$x + 1$のように具体的に数を構成したのであれば「$y:=x + 1$とおくと」で十分です。具体的な取り方があるかどうかは置いといて、とにかく存在することを主張したいときに「〜が存在する」とか「ある~が存在し,…」のような言い回しを使います。


そもそも「論法」なの?

地味に思ったのが、「$\varepsilon$-$\delta$論法って『論法』なの?」ということです。

個人的に「論法」と聞くと、何かの「推論」や「証明法」などといった意味合いを感じます。一方、$\varepsilon$-$\delta$論法は証明法というよりは「表現方法」や「形式」といったものが近いので、「$\varepsilon$-$\delta$式定義」のような言い回しがしっくりきます。

まあ、それって私の感想ですよね。「論法」に数学的定義があるわけではないので、気にしすぎかなと思います。


εは任意なのに、小さい数の扱いをするのはなぜ?

$\varepsilon$-$\delta$式定義を振り返ると「任意の$\varepsilon > 0$に対して」と書いてありますよね。

つまり、$\varepsilon=0.1$に対しても考えるべきですし、$\varepsilon=10000$のようにでっかい数に対しても考えなくてはならないはずです。それなのに、「$\varepsilon$は小さい数」として考えるんです。心の中の厚切りジェイソンが叫びますよ、「Why epsilon's people!?」とね*2


この疑問については、$\varepsilon$-$\delta$式定義をよく観察する必要があります。


例えば、以下の図のように、$\varepsilon=0.5$に対して、上手く区間$(a - \delta, a + \delta)$が取れたとしましょう。

このとき、$\varepsilon=0.5$より大きい誤差を考える必要がないんです。上図における赤い領域を、頭の中でズズズッと広げてみてください。何も$\delta > 0$をいじらなくても、区間$(a - \delta, a + \delta)$内の点の行き先は収まったままと思いませんか?


一応、$\varepsilon$-$\delta$式の連続性の定義の方でも確認しましょう。
仮に$\varepsilon=0.5$に対して、いい感じの$\delta > 0$が取れて、
\[
|x - a| < \delta\implies |f(x) - f(a)| < 0.5
\]となったとしましょう。このとき、$ |f(x) - f(a)| < 0.5 < 10000$なので、$\varepsilon=10000$に対しては、さっき取った$\delta > 0$で成り立ちます。よって、より大きい誤差を考える必要がなく、小さい$\varepsilon > 0$に対して考えることが重要なのです。


「任意」の部分だけではなく、不等式にも注目すればよかったんですね。これに気づいたとき、「ああ、こんなことで悩んでたのか」と少し落ち込みました…


ところで、個人差はあると思いますがしょうもないことで躓くというのは「あるある」です。そんなに落ち込むことはないと思います。むしろ「分からないことが減ったぞヤッター」くらいの気持ちでいましょう。

また、何日も考えてたり、先生や友人に教わったりしても、分からないのも「あるある」です。どうしても分からないときは、分からなかった所をメモしておき、先に進むのも全然アリです。後で見返したら、分かるようになることがあります。


ε/2に調整するやつが分かるようで分からない

$\varepsilon$-$\delta$式の連続性を使って何かを証明するとき、$\varepsilon$を$\frac{\varepsilon}{2}$などに調整する小技を使うことがあります。

命題1
$f:I\to\mathbb{R}$は$x=a$で連続であるとする.このとき,任意の$\varepsilon > 0$に対して,ある$\delta > 0$が存在し,任意の$x\in I$に対して$|x - a| < \delta$ならば
\[
|f(x) - f(a)| < \color{red}{\frac{\varepsilon}{2}}
\]が成り立つ.
最後の最後が$\frac{\varepsilon}{2}$になっているだけです($\frac{1}{2}$でないと成り立たないというわけではなく、皆さんのお好きな正の定数で成り立ちます)。

当時、この性質が分かりそうで分からなかったですね。まあ、$\varepsilon$は任意だからいいのかな(適当)って感じの理解でした。


今の私はこう理解しています。


$\varepsilon > 0$を任意に取って、新たに$\varepsilon' := \frac{\varepsilon}{2} > 0$を考えます。$f$の連続性によって、この$\varepsilon'$に対して$\delta >0 $が取れて(以下略)…となる訳です。


「なんだ、それだけのことだっ………分からないことが減ったぞヤッター」


なお、逆に以下のようなことが言えます:

命題2
$c > 0$を定数とする.任意の$\varepsilon > 0$に対して,ある$\delta > 0$が存在し,任意の$x\in I$に対して$|x - a| < \delta$ならば
\[
|f(x) - f(a)| < c\varepsilon
\]が成り立つとき,$f$は$x=a$で連続である.
感覚的には、$\varepsilon$はどんどん小さくしていく数ですので、定数倍のずれがあってもどんどん小さくなっていきます。だから連続なんです。


δを上手く取れない

よし、$\varepsilon$-$\delta$式の連続性の定義の言わんとしていることは分かった。では、練習問題としてこちらの証明をやってみましょう。

練習問題
$f(x)=x^2$は$x=1$で連続であることを$\varepsilon$-$\delta$論法を用いて証明しなさい。

まずは証明の目標を見失わないように何を示すべきかはっきりさせます。

とりあえず任意に$\varepsilon > 0$を取ります。

我々の目標は、$\varepsilon > 0$(および$\varepsilon$に無関係な定数)にしか依存しない$\delta > 0$を見つけることです。どういう$\delta$かというと、
\[
|x - 1| < \delta\implies |x^2 - 1| < \varepsilon
\]をみたすようなものです。これが示すべきことです。

と言われましても、「どう手をつけたらいいのか分からない…」となること、ありますよね。


原因は「全称($\forall$)と存在($\exists$)を含む命題の証明に慣れていない」というのもありますが、個人的には「不等式評価は等式変形よりも難しい(慣れていない)」というのが大きいかなと思います。


不等式評価には「より扱いやすい数(関数)で抑えたい」というモチベーションがあります。


テクニックとしてよく使うのは三角不等式
\[
|a + b| \le |a| + |b|
\]ですね。 $|a + b|$でまとまっているよりも、(無理矢理でも)個別に分けた方が扱いやすくなることはよくあります。

あと、言われれば当たり前なんですけど、$a \le b$のとき
\[
2a \le a + b \le 2b
\]とか、$\delta:=\min\{\varepsilon, 1\}$とおいたとき、
\[
\delta \le 1,\quad \delta \le \varepsilon
\]が成り立ちます。とりあえず大きい(あるいは小さい)数で抑えてみようという発想はぜひ思いついてほしいです。


「では具体的にどうやるの?」という方のために、好きな$\delta$の取り方発表ドラゴンが、好きな$\delta$の取り方を4つ発表します。

δの取り方その1: 良きところでεとおくやつ

ちょっと前置きが長くなりましたが、練習問題を考えていきます。

発想としては、$\delta > 0$の取り方は後回しにして、「どうにか$|x - 1| < \delta$を使って$|x^2 - 1| < \varepsilon$」とできないかを考えます。

すると
\begin{align*}
|x^2 - 1| & = |x + 1||x - 1|\\
& < |x + 1|\delta\\
& = |x - 1 + 2|\delta\\
& \le (|x - 1| + 2)\delta\\
& < (\delta + 2)\delta\\
& = \delta^2 + 2\delta
\end{align*}となるかと思います。ここで、$\delta^2 + 2\delta = \varepsilon$となってくれたら嬉しいですね。ということで、$\delta$の2次方程式を解いて
\[
\delta=-1\pm\sqrt{1+\varepsilon}
\]が求まりました。今は$\delta > 0$としたいので、$\delta=-1 + \sqrt{1+\varepsilon}$とすればよいですね!


無事、上手い$\delta$が見つかったので、証明を書いていきます。


証明
任意の$\varepsilon > 0$に対して$\delta:=\sqrt{1+\varepsilon} - 1 > 0$とおく.
すると,$|x - 1| < \delta$のとき
\begin{align*}
|x^2 - 1| & = |x + 1||x - 1|\\
& < |x + 1|\delta\\
& = |x - 1 + 2|\delta\\
& \le (|x - 1| + 2)\delta\\
& < (\delta + 2)\delta\\
& = (\sqrt{1+\varepsilon} + 1)(\sqrt{1+\varepsilon} - 1)\\
& = \varepsilon.
\end{align*}よって,$f(x)=x^2$は$x=1$で連続である.■


証明だけを見ると、「なんだその$\delta$は!?思いつくわけがない!」と感じるかもしれません。しかし、実際は証明までの過程を「下書き」として試行錯誤していて、証明を書くときに「清書」してきれいにまとめていることが多いです。


δの取り方その2: いい感じの不等式を利用するやつ

$\delta$の取り方は後回しにして、$|x - 1| < \delta$として
\begin{align*}
|x^2 - 1| & = |x + 1||x - 1|\\
& < |x + 1|\delta\\
& = |x - 1 + 2|\delta\\
& \le (|x - 1| + 2)\delta\\
& < (\delta + 2)\delta\\
& = \delta^2 + 2\delta
\end{align*}と計算するところまで「その1」と同じです。

2乗の扱いにちょっと困ったかもしれませんが、$0 < \delta \le 1$ならば$\delta^2 \le \delta$と抑えられます。言われれば確かに。

この不等式を利用したいのであれば、いっそのこと$\delta \le 1$としましょう。「そんな勝手なことしていいの?」と思われるかもしれませんが、いいんです。どんな手段であれ、$\delta$は見つかれば良かろうなのです。

ということで、$\delta \le 1$すると、
\begin{align*}
\delta^2 + 2\delta &\le \delta + 2\delta\\
&= 3\delta
\end{align*}となります。よって、$3\delta\le\varepsilon$であればよいので、 $\delta \le 1$と合わせて$\delta:=\min\{\frac{\varepsilon}{3}, 1\}$とおけばよいことが分かりました。

なお、命題2により、定数$3$は気にしなくてもよいので、$\delta:=\min\{\varepsilon, 1\}$でも構いません。


それでは証明をまとめていきます。


証明
任意の$\varepsilon > 0$に対して$\delta:=\min\{\frac{\varepsilon}{3}, 1\}$とおく.
すると,$|x - 1| < \delta$のとき
\begin{align*}
|x^2 - 1| & = |x + 1||x - 1|\\
& < |x + 1|\delta\\
& = |x - 1 + 2|\delta\\
& \le (|x - 1| + 2)\delta\\
& < (\delta + 2)\delta\\
& = \delta^2 + 2\delta\\
& \le \delta + 2\delta\\
& \le 3\cdot\frac{\varepsilon}{3}\\
& = \varepsilon.
\end{align*}よって,$f(x)=x^2$は$x=1$で連続である.■


δの取り方その3: 「(ほぼ正の定数)×δ」に注目するやつ

$\delta$の取り方は後回しにして、$|x - 1| < \delta$のとき
\begin{align*}
|x^2 - 1| & = |x + 1||x - 1|\\
& < |x + 1|\delta\\
& = |x - 1 + 2|\delta\\
& \le (|x - 1| + 2)\delta\\
& < (\delta + 2)\delta
\end{align*}となります(展開はしない)。

ここで、$\delta$の取り方をまだ決めていないですが、$(\delta + 2)$は「2よりちょっと大きい数」と見做せそうです。実際$\delta\le1$とすると
\[
(\delta + 2)\delta \le 3\delta
\]となります。ということで$\delta:=\min\{\frac{\varepsilon}{3}, 1\}$と取ればよいことが分かりました。

結果だけ見ると「δの取り方その2」と同じになりましたが、「その2」の方は「$0 < \delta \le 1$ならば$\delta^2 \le \delta$」という不等式を使っているため、$1$で抑えないといけません。

一方「その3」は好きな正の定数で抑えてよいので、極論$\delta:=\min\{\varepsilon, \pi\}$でも構いません($\varepsilon$ぴったりに調整したいなら$\delta:=\min\{\frac{\varepsilon}{\pi +2}, \pi\}$となる)。しかし、正しい議論とはいえ、謎の定数を使っても意味がないので1を推奨します。

では、「その3」の証明を清書していきたいところですが、「その2」とほとんど同じなので省略します。


δの取り方その4: 不等式を同値変形するやつ

最後に紹介するのは、$|x^2 - 1| < \varepsilon $を
\[
(\varepsilon\text{の式1}) < x - 1 < (\varepsilon\text{の式2})
\]のように変形し、
\[
\color{red}{(\varepsilon\text{の式1}) \le -\delta} < x - 1 < \color{red}{\delta \le (\varepsilon\text{の式2})}
\] となるように$\delta$を定める、つまり、
\[
\delta:=\min\{-(\varepsilon\text{の式1}), (\varepsilon\text{の式2})\}
\]とおく方法です。色々と注意が必要ですが、不等式というよりも同値変形で何とかなる(かもしれない)証明です。

証明
$\varepsilon > 0$を任意に取る.
(1) $\color{red}{0 < \varepsilon \le 1}$のとき
\begin{align*}
& |x^2 - 1| < \varepsilon\\
\iff & - \varepsilon < x^2 - 1 < \varepsilon\\
\iff & 1 - \varepsilon < x^2 < 1 + \varepsilon\\
\color{red}{\impliedby} & \sqrt{1 - \varepsilon} < x < \sqrt{1 + \varepsilon}\\
\iff & \sqrt{1 - \varepsilon} - 1 < x-1 < \sqrt{1 + \varepsilon} - 1.
\end{align*}よって,$\delta:=\min\{1 - \sqrt{1 - \varepsilon}, \sqrt{1 + \varepsilon} - 1 \} > 0$とおけばよい.

追記(2024年4月17日) 同値変形の4行目を以下のように訂正しました:
誤:$\color{red}{\iff} \sqrt{1 - \varepsilon} < x < \sqrt{1 + \varepsilon}$
正:$\color{red}{\impliedby} \sqrt{1 - \varepsilon} < x < \sqrt{1 + \varepsilon}$

(2) $1 < \varepsilon$のとき
(1)より,($\varepsilon'=1$に対して)ある$\delta > 0$が存在し,$|x - 1| < \delta$ならば
\[
|x^2 - 1| < 1 < \varepsilon
\]が成り立つ.

(1),(2)より,$f(x)=x^2$は$x=1$で連続である.■



「その4」の証明では、結論の式である$ |x^2 - 1| < \varepsilon$から出発しているため、最終的に下($-\delta < x-1 < \delta$)から上($ |x^2 - 1| < \varepsilon$)へ辿れることを確認してください。

あと、念のため$\delta > 0$であることもチェックしてください(他の証明でもそう)。今回は$1 - \sqrt{1 - \varepsilon} > 0$,$\sqrt{1 + \varepsilon} - 1 > 0$なので大丈夫です。

また、ルートの中身が負にならないように場合分けをする必要があることに注意してください。とは言っても、(2)の証明は(1)を利用すれば難なく証明できます。これは、$\varepsilon$-$\delta$式定義の連続性は小さい$\varepsilon > 0$に対して考えることが重要であり、実は$0 < \varepsilon \le 1$のときを証明できれば十分であることを示唆しています。より一般に、以下の命題が成り立ちます:

命題3
$c > 0$を定数とする.任意の$0 < \varepsilon \le c$に対して,ある$\delta > 0$が存在し,$|x - a| < \delta$ ならば $|f(x) - f(a)| < \varepsilon$ が成り立つとき,$f$は$x=a$で連続である.

また、(2)の$\delta$は
\begin{align*}
\delta & =\min\{1 - \sqrt{1 - 1}, \sqrt{1 + 1} - 1 \}\\
& =\sqrt{2} - 1
\end{align*}のように計算できますが、$\delta$は存在さえ分かればいいので、計算が面倒ならしなくてもいいと思います。とは言うものの、計算することで$\varepsilon > 1$に対しては$\delta=\sqrt{2} - 1$という「$\varepsilon$に依存しない定数」を取れることが目に見えて分かります。何が起きているのかについては、図を描くなりして掘り下げてみるのもよいかもしれません。



以上、$δ > 0$の取り方を4つ発表しました。これらの方法がすべてとは言いませんが、どんな$δ$の取り方にせよ、「より扱いやすい数で抑えたい」というモチベーションを忘れなければ、どこかで手がかりをつかめるのではないかなと思います(「その4」は不等式評価してる感があまりないけど)。


まとめ

いかがでしたでしょうか。$\varepsilon$-$\delta$論法は述語論理の延長と思えば大したことないのかもしれませんが、なんだかんだ解析学の難関の一つだと思います。それに加えて、不等式評価は等式変形とは少し異なる数学力が問われるので、慣れてないと難しいと思います。

というか、大学の数学は全部むずいです。私はかなり時間を溶かさないと理解できないことが多いので、時には数学と距離を置きたくなることもあります。ですが、時間をかけて、数学の面白さを理解できたときの嬉しさというのは他には代えられないです。そのために数学をやっていると言っても過言ではないです。



「分かった数学も 分からない数学も 好き好き大好きー」でいきましょう。



P.S. 最近ブログが滞っていますが、好きな数学がまた出てきたときは発表したい。

thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )

参考(最近はまっている曲)

ンバチ『好きな惣菜発表ドラゴン』
youtu.be

*1:「$a\in I$で連続である」とも書きます

*2:私が$\varepsilon$-$\delta$を学んだときに厚切りジェイソンがまだ芸人デビューしてなかったのが一番のWhy