僭越ながら、M-1グランプリ2024の数学チェックを開催させていただきます。
数学的示唆があれば解説して、数学的な誤りがあったら失格とします。

- 動機
- 令和ロマン「名字」「タイムスリップ」
- ヤーレンズ「おにぎり屋さん」
- 真空ジェシカ「商店街ロケ」「アンジェラ・アキ」
- マユリカ「同窓会」
- ダイタク「ヒーローインタビュー」
- ジョックロック「医療ドラマ」
- バッテリィズ「偉人の名言」「世界遺産」
- ママタルト「銭湯」
- エバース「桜の木の下」
- トム・ブラウン「コール」
- まとめ
- 参考資料
動機
動機はやはりM-1グランプリ2023のさや香の最終決戦ネタ「見せ算」ですかね。
見せ算以前(2023年より前のM-1決勝戦)で数学的概念が主軸のネタになったことはなかったと思います。強いて言えば、以下のように用語がちょっと登場する程度でした。
オカンが言うには、なぜあんなに栄養バランスの五角形デカいんか分からんらしい - ミルクボーイ M-1グランプリ2019
偏見じゃない!統計だから偏見じゃない! - ウエストランド M-1グランプリ2020
二進法の2は、片手でこう表せますよ - 真空ジェシカ M-1グランプリ2021
そんな中、M-1グランプリ2023で披露されたさや香のネタは、「見せ算」という新しい演算を発表するものでした。これは数学的示唆に富んだ内容でありつつ、最後まで数学が話題だったことに衝撃を受けました。
そして、見せ算以降も数学的示唆のある面白い漫才が増えて欲しいと思い、誠に勝手ながら「M-1グランプリ2024 数学チェック」を開催させていただきます。
あと、弁護士芸人こたけ正義感さんが自身のYouTubeチャンネルに投稿している「お笑い賞レースのネタ全組リーガルチェックしてみた」のシリーズを見て、これの数学版をやりたいという長年の野望を叶えたかったのも動機になっています。
それでは始めます!
令和ロマン「名字」「タイムスリップ」
「名字」がテーマのしゃべくり漫才と「タイムスリップ」がテーマの漫才コントを披露していました。表現力・着眼点・漫才の構成など、どこを見てもハイレベルで圧倒されました。すごい。
先生から最も離れた席
では、数学チェックに入ります。
漫才の中に「先生から最も離れ、角をとる最強の名字」について話すくだりがありました。
いきなりですが、これはめちゃくちゃ数学的考察のしがいがあります!
まず、「最強の名字」についてですが、「最強」は強さに関する順序があってこその概念です。「青木や赤城やらの失敗を糧に…」という発言から五十音順だと思いますが、五十音順のような順序を数学では辞書式順序と呼んだりします。その名の通り、辞書のように先頭の要素から見ていき、異なる文字が現れたらそこで順序を決定するような順序です。
ということで、「最強の名字」を数学的に表現したい場合は、「五十音による辞書式順序で最大の名字」となります。
便宜上、五十音に空白文字「 」を導入し、空白文字は「あ」よりも前とします。そして、すべての名字の後ろには空白文字が1個あるとみなす(名字をもたない人は「 」を名字とする)ことで、困ることなく名字の順序を定めることができるかと思います。例えば「おぎ」と「おぎの」の比較は「おぎ 」と「おぎの 」の文字列を比較すればよく、
「お」=「お」,「ぎ」=「ぎ」,「 」<「の」
なので「おぎ」<「おぎの」となります。なお、この定義だと名字をもたない人が一番前になりますが、実際の学校の現場がどうなっているのかについては知らないです(多分学校による)。
さらに、「先生から最も離れ」とも言っていることから、先生との距離についても言及しています。距離と言っても色んな距離があるので、教室という空間にどんな距離を定めるのがよいか?について考えてたくなりました。
特に断りがない場合、我々が普段使う距離、すなわちユークリッド距離($x$成分の差の2乗と$y$成分の長さの2乗の和をルートで括ります。𰻞𰻞麺方式)を使います。

上の図の場合、先生と渡邊との距離はおよそ14(正確には$\sqrt{5^2+13^2}=\sqrt{194}$)であり、渡邊の席が先生から最も離れた席の一つであることが分かります。
無難にユークリッド距離を導入しても大きな問題はありませんが、ここで、渡邊が余ったプリントを先生の所まで返しに行く場合を想像してみてください。
最短ルートでまっすぐ移動しますか?
橋本をかすめながら?
そうですよね、普通は机の影響で前後左右にしか移動できません。したがって、
$x$方向の距離と$y$方向の距離の和
で定義された距離を考えてもよさそうです。この距離はマンハッタン距離($L^1$距離)と呼ばれています。
上図において、座席に記載した番号は先生とのマンハッタン距離を表しています。また、先生との距離が5,10,15の場所にはそれぞれ内側から順に線を描きました。
このとき、先生と渡邊のマンハッタン距離は、横方向の距離が5、縦方向の距離が13なので$5+13=18$となります。マンハッタン距離でも渡邊は先生から最も離れた席(の一つ)ですね。
めでたしめでたし
…と思うじゃないですか!?
もう一度漫才のくだりを振り返りましょう。くるまさんは「先生から最も離れ、角をとり、」というように、1つずつ条件を列挙していました。しかし、ユークリッド距離およびマンハッタン距離の場合、「先生から最も離れ」の時点で角の席が確定してしまいます。つまり、「角をとり」は言う必要がないのです。
これはくるまさんのミスなのでしょうか?いや、むしろ我々が間違っているのかもしれません。つまり、「先生から最も離れ」で角の席が確定しない距離を導入していれば何も問題はないのです。
例えば、チェビシェフ距離($L^{\infty}$距離)というものを考えてみましょう。

例えるなら「将棋の王将が最短で辿り着ける距離」みたいな感じです。ナナメ移動が1マス分なのがポイントです。
より正確に述べると、平面上の2点間のチェビシェフ距離は
$x$方向の距離と$y$方向の距離のうち、大きい方の値
で定義されます。上図のような教室の場合、先生と渡邊の横方向の距離は5、縦方向の距離は13なので、チェビシェフ距離は$13$となります。同様にして、一番後ろの席と先生とのチェビシェフ距離は$13$だと分かり、これが最大です*1。
この距離を採用すると、「先生から最も離れ」で一番後ろの席に絞られ、「角をとり」で2択になるため、発言に無駄がなくなります。ということで、令和ロマンの名字のネタを観るときは、チェビシェフ距離を意識するのがオススメです!
そして「山本などと秘密のコミュニティを築き」で山本と席が近い名字だと分かり、「青木や赤城やらの失敗を糧に冷静な発言を繰り出す」で辞書式順序が連想され、この辺で多くの人が「渡邊」を意識したのではと思います。そしてとどめの「最強の名字!渡邊」で Q.E.D. ですよ。
令和ロマン、すごすぎる。
37人の席の他の配置方法としては、$6×6$に1席追加するものが考えられますが、渡邊(6列目)の後ろに追加するパターンや、真ん中の列(3列目か4列目)に追加するパターンなどが考えられます。もし4列目の後ろに席$A$を追加した場合、$A$と先生のユークリッド距離は
難しい方の渡邊
数学にも「渡辺と渡邊」の関係のように、難しい方の漢字が使われる例があります。
例えば「関数と函数」「線形と線型」などがあります。
近年だと「函数」はあまり使われませんが、「線形」と「線型」についてはどちらも使われる傾向にあると思います。
個人的には、画数の多い漢字はなるべく避けたいので簡単な方を使いたいです。
齋藤は違うよ!?
齋藤さんは簡単な方の「斉藤」で書かれることを許さないというような主張(真偽は不明)が出てきましたが、数学にも似たような現象がなくはないです。
2つの数学的対象が何かしらの意味で同じ構造のとき、同型という用語が使われます。例えば、コーヒーカップとドーナツは連続的変形によって移り変わることができるため、「コーヒーカップとドーナツは位相同型」なんて表現したりします*2。
このように、同型は位相同型だけでなく数学の各分野に存在する概念なのですが、断固として“同形”と書かない人はいます。ホントに。
2024年12月24日にXでアンケートをしてみた結果によると、むしろ“同形”はNGの人が倍以上多いという結果になりました(サンプル数が少なく、無作為抽出とは言えないのであくまで参考程度に)。
数学用語の同型の漢字についてのアンケートです。
— コロちゃんぬ (@corollary2525) 2024年12月23日
線形は許されているのに…何故なんですかね?
かくいう私も“同形”は使わない派です。なんとなくですが、“同形”と書くと図形をイメージしてしまうので、分野によってはイメージに合わないのかなと思います。一方、線形は「線の形」でも「線の型」でもあまり違和感はないから両方使われる、ということなのかもしれません。
なお、別に“同形”の表記が間違っているわけではないのでご注意ください。版が古いですが、私が持っている『岩波数学辞典 第3版』では“同形”が使用されています*3。また、斎藤毅先生の線形代数の教科書には次のような余談が記載されています:
余談6 線形空間や線形代数は,以前は線型空間や線型代数のように書くのがふつうだったが,最近は「型」よりも「形」を使う方が多くなってきている.この本では,これにあわせて,同形や準同形も「形」を使うことにした.
この先、線形と同じように“同形”も市民権を得てくるのかもしれませんね。私はこれからも「型」の方を使うつもりですが、他の人に押し付けるつもりはないです。ただ、迷ってペンが止まるくらいなら英語表記をオススメします。
今年30歳になったんですけどね、数えで37
た だ で す ね
漫才の冒頭で「今年30歳になったんですけどね、数えで37」という発言がありましたが、満年齢と数え年の差は最大でも2なので、明らかに数え間違いをしています。
一応その直後にケムリさんが訂正をしていますので、大目に見ればセーフです。
いや、いねえだろ(和田)
た だ で す ね(2回目)
ネタの最後にケムリさんは渡邊よりも後ろの席になる名字として「和田」を挙げましたが、くるまさんは即座に「いや、いねえだろ」と否定しました。この件に関してケムリさんは特に訂正しませんでした。
2025年3月現在、和田をという名字を持つ人は存在します。これを証明するには
などが考えられます。特殊な事情がない限りは1つ目の証明方法が簡単で、芸人ですとネルソンズの和田まんじゅうさんがいます。
よって、「和田さんは存在しない」は明らかな数学的誤りと言えます。
ということで、
令和ロマン 失格
2.5次元
残念ながら令和ロマンは失格となりましたが、2本目の「タイムスリップ」も数学チェックしましょう。
ストーリーの後半で2.5次元俳優みたいな敵が攻めてきました。漫画やアニメなどの2次元の平面上の作品を3次元の俳優が表現するため、間をとって2.5次元と呼ばれていますが、数学的に2.5次元の図形は存在するのでしょうか?
俺が不勉強なばっかりに実際にお見せすることができないのですが、実数値をとる次元は存在し、例えばハウスドルフ次元というものがあります。また、2.5次元に近い図形で言うとメンガーのスポンジがあり、この図形のハウスドルフ次元は
\[
\frac{\log 20}{\log 3}\approx 2.7268
\]であることが知られています。

やらない後悔よりやって大成功
た だ で す ね
冒頭で「やらない後悔よりやって大成功」という名言が出てきました。やらないことで得られる後悔とやることで得られる大成功では、後者の方が良いように思えますが、「やること」が何であっても成り立つのかと思うと反例を探したくなります。
「熊猿になって戦国時代にタイムスリップすること」がやることだった場合、刀や銃による攻撃を受ける勇気があればやった方がよいでしょう。
一方、「クリスマスに世界中の子供たちにプレゼントを渡すこと」がやることの場合、これを大成功させるのに必要な準備・出費・運動エネルギー等を考えて、私なら「やらない後悔」を選びます。
ということで、「やること」が「タイムスリップのみ」を指すのか「任意のやること」を指すのかで答えが変わります*4。ただ、この件についてくるまさんは明確に主張していなかったように思います。したがって、定義不足のためペンディングといたします(失格ではない)。
ちなみに、やらない後悔よりやって後悔(名言A とおく)を認めると
やらない後悔≦やって後悔≦やって大成功
となるため、「やらない後悔よりやって大成功」を証明することができます。まず、笑み籤の前提として、
- 笑み籤を引いてコンビ名が出てくる確率はどれも等確率
- 去年の抽選と今年の抽選は互いに独立
であるものとします。
もし、「前回がトップバッターだったから、今回もまたトップバッターになる確率は低くなる」という意味でいったのであれば、前提と矛盾するため数学的誤りになります。
一方、「2回連続でトップバッターになる確率が低いから起こりえないだろう」の意味だった場合は数学的な誤りとは言えません。
一応、笑み籤の前提が破綻している可能性もありますが…面白くないので止めます。
ヤーレンズ「おにぎり屋さん」
ヤーレンズ「おにぎり屋さん」のネタでした。ヤーレンズらしくボケを連発していて面白かったです。
一握の飯
おにぎり屋さんの店名を考えるくだりがありましたね。石川啄木の歌集をモジった「一握の飯」もいい店名だと思いますが、数学由来の店名も考えてみたいところです。
そうですね、おにぎりといえばお米なので、米田埋め込みをモジって「米田炊き込み」とかどうですかね(ヨネダですけど)。
あるいは…
…ということで、数学にしては名前が素敵すぎるクロネッカーの青春の夢をモジってみました。
一握りにすんなよ
た だ で す ね
ネタの最後で、おにぎりを4個注文していたはずなのに、一握りにして1個で提供されました。言うまでもないですが、
\[
4\neq1
\]であり、明らかな数学的誤りです。
注文分のおにぎりを一握りにするのが「一握の飯」の営業方針なのかもしれませんが、事前に伝えることを怠っています。
ということで、
ヤーレンズ 失格
真空ジェシカ「商店街ロケ」「アンジェラ・アキ」
4年連続ストレート決勝進出の真空ジェシカ!今年のネタも強烈でした。毎年期待を超えるフレーズを作れるの普通にえぐい。「ピアノが大きくなるアンジェラ・アキ」の発想力と表現力が羨ましいとすら思いました。
じゃんけんを難しく
「じゃんけんを難しく」を公約にした立候補者が出てきました。これは考察のしがいがありますよ!
「難しく」を「じゃんけんの手を増やす」という意味でとらえると、任意の4以上の自然数$n$に対して『手の数$n$の公平なじゃんけん』をつくることができるか?という問題が考えられます。
例えば。$n=5$の場合、このようなじゃんけんが考えられます。

上の図は、矢印の始点は終点に勝つことを意味します。例えば、手1は手2と手3に負けて、手4と手5には勝つと定めました。また、同じ手はあいこと定めます。
このとき、手1が(自分自身を除いて)総当たり戦をすると2勝2敗になります。他の手も同様に2勝2敗になるため、公平といえるでしょう。
ちなみに3人対戦を考えると、手1,手2,手3が出た場合、手3の勝ちとするのが面白そうです。また、手1,手2,手4の場合、3すくみが起きるのであいことするのがよさそうです。
一般の$n$について書き出すと記事が長くなるので、この辺にしておきます。
\[
j - i\equiv 1,2,\cdots, k\pmod n
\]で定義すればよさそう(奇素数でないとまずいかなと思ってたけど気のせいだった)。
ちなみに偶数のときは「異なる手には必ず勝敗がある」という条件の下では勝率に差が出てしまうのがアレ。
今一番求められているのは子育て支援
た だ で す ね
漫才の冒頭で「今一番求められているのは子育て支援だろ」という発言がありました。数学的には「一番」がちょっと気になります(あくまで数学的に)。
ここは極大の方がいいのかなと思いました。つまり「子育て支援よりも優先される政策が存在しない」とか「比較できるものの中では一番」とかがより正確です。
順序の入れ方にも依りますが、公約や政策は必ずしも比較できるとは限らないので、「どの公約と比べても、この政策がより求められている!」といった主張をするのは難しいと思います。
商店街ロケより子育て支援の方が求められてる件については同意しますが、「極大」を「一番」と表現してよいかというと…うーん。
そもそも、政策全体にどのような順序を定めたのかが分からないな…。あと商店街ロケは政策なのか?
細かすぎる指摘と自分でも理解していますが、真空ジェシカは定義不足とします。
南原状態
では、2本目の「アンジェラ・アキ」のネタの数学チェックです。録画を何度も見返しましたが、数学的誤りはなかったと思います。かと言って、数学的示唆も見当たりませんでした。まーちゃんごめんね。
強いて言えば「何度もバラバラにされる」ことを「南原状態」と言っていましたが、「南原状態の図形とは何だろう?」と少し考えたくなったくらいです。
マユリカ「同窓会」
敗者復活から上がってたマユリカ。ヤバい同級生がたくさん出てきて面白かったです。その同級生すら覚えていない同窓会に参加する方もある意味ヤバいなと思いました。
うんこサンドイッチ
うんこサンドイッチで思い出すのはハムサンドイッチの定理ですね。「『ハム』『上のパン』『下のパン』の3個の3次元の物体*5があったときに、すべての物体の体積を同時に2等分するようなカット(平面)が必ず存在する」という測度論の定理です。物体をどこに配置しても、上手くやれば同時に一撃でズバッと2等分できるのが面白いですね~
馬鹿みたいにコーヒーを飲む
コーヒーと数学で想起するものと言えば「数学者はコーヒーを定理に変換する機械である」という言葉ですね。ハンガリーの数学者ポール・エルデシュの言葉といわれることもありますが、本当は彼の同僚のレーニ・アルフレードが元らしいです。
(80年代のカーナビは)ゴミやん!
た だ で す ね
80年代のカーナビを使っているのが原因で、先生が迷いに迷って淡路島にいることを聞き、中谷さんは「ゴミやん!」と言っていました。
80年代はちょうど、ホンダが世界初の「商品化された自動車用ナビ」を発売した時期だったようです。80年代のカーナビは今の技術と比べると劣っているかもしれませんが、80年代当時の最先端の科学技術(数学を含む)を駆使して開発されたはずです。それをゴミと表現するのは聞き捨てなりません。特に数学はどんなに昔の発見だとしても、正しいことは未来永劫変わりません。
ということで
マユリカ 失格
ダイタク「ヒーローインタビュー」
ラストイヤーにしてようやく出れたダイタク。双子を活かした王道のしゃべくり漫才でした。やっぱり王道が一番かっこいい。
ダイでもタク、タクでもダイ
柔道家の谷亮子さんの言葉「最高で金、最低でも金」をモジった言葉「ダイでもタク、タクでもダイ」が出てきました*6。どちらの言葉も順序の反対称律が関係する言葉だと考えられます。
谷亮子さんの言葉は「目標は金メダルしかない」の言い換えになっています。あえて式で表すと、「目標≦金(これは自明)」かつ「金≦目標」であるから「目標=金」というわけですね。
一方、ダイタクさんは「ダイの特徴がタクの特徴に一致する」ことを主張していそうです。ダイさんがもつ特徴全体の集合を$D$、タクさんがもつ特徴全体の集合を$T$とすると、
\[
D\subset T,\quad T\subset D
\]を主張しており、すなわち$T=D$となるわけです。
ダイでもタク、タクでもダイ?
た だ で す ね
本当に$T=D$ですか?見た目はそっくりだと思いますが、名前が違いますよね。仮に、ダイさんとタクさんが同一人物だったとするとM-1グランプリの出場資格の一つの「2人以上の漫才師」をみたさないため、ガチの失格となります。
いずれにせよ
ダイタク 失格
ジョックロック「医療ドラマ」
ツッコミパワーがすごい!ぜひ劇場で生の声を聞いてみたいと思った漫才師でした。
リズム感がないから裏拍に乗れない
心拍が裏拍だったため「リズム感がないから裏拍に乗れない!」というくだりがあったので、裏拍に似た概念の数学の小ネタを考えてみました。
唐突ですが、循環小数
\[
a=0.101010\cdots
\]を分数で表すことを考えましょう。通常であれば、
\[
100a=10.101010\cdots
\]から$a$を引くことで小数部分が消えて
\[
99a=10
\]となり、$a=\frac{10}{99}$と求めることができます。
今回はあえて“裏拍”に相当する
\[
0.1a=0.010101\cdots
\]を考えてみましょう。これに$a$に足すと
\[
1.1a=0.111111\cdots=\frac{1}{9}
\]になります。したがって、
\[
a=\frac{10}{99}
\]と求めることが可能です。
数学って、リズム感なんですよねー
……🤔
数学的誤り:なし
次に数学的誤りのチェックですが、特になかったと思います。
ということで、
ジョックロック 最終決戦進出!
バッテリィズ「偉人の名言」「世界遺産」
本大会で評価が急上昇したバッテリィズ!エースさんのキャラ的に数学がテーマでもいい漫才ができそうなので、今後の活動に注目したいですね。
自転と公転さえ分かれば!
ガリレオの言葉にエースさんが「自転と公転さえ分かれば!」と嘆いていました。自転と公転は数学用語ではないですが、定義の大切さが分かる素晴らしい名言だと思います。また、エースさんは「分からない用語が分かっている状態」のため、伸びしろを感じます。
ママタルト「銭湯」
バッテリィズが跳ねたせいか点数が思ったより伸びませんでしたが、面白かったです。檜原さんのツッコミはライブで聞く方が絶対面白いと思うのでいつか観に行きたいです。
エバース「桜の木の下」
2024年のエバースのお笑いコンテスト出場率がすごすぎたので、その勢いで最終決戦に残るかもと思いましたが、残念ながらあと1点届かず。今後の活躍が楽しみです。
俺1階いるときその子2階見てて、俺2階行ったらその子3階見てて…
「俺1階いるときその子2階見てて、俺2階行ったらその子3階見てて、俺3階行ったらその子1階見てたら会えないじゃん」というセリフがありました。これを代数学の観点で考察してみます。
最初は
1階:佐々木さん 2階:Aさん 3階:誰もいない
という位置関係で、次のステップでは1階:誰もいない 2階:佐々木さん 3階:Aさん
となりました。これは1階の人は2階に、2階の人は3階に、3階の人は1階に移動するという規則に従っています。この規則に従ってもう1回行うと1階:Aさん 2階:誰もいない 3階:佐々木さん
となり、その次は1階:佐々木さん 2階:Aさん 3階:誰もいない
となります。3回で元の位置に戻りました。表にまとめるとこのようになります:
| 初期位置 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | |
|---|---|---|---|---|
| 3階 | 誰もいない | Aさん | 佐々木さん | 誰もいない |
| 2階 | Aさん | 佐々木さん | 誰もいない | Aさん |
| 1階 | 佐々木さん | 誰もいない | Aさん | 佐々木さん |
ここでクイズです。同じ移動を3回繰り返すことで、元の位置に戻る移動方法は他にあるでしょうか?ただし、佐々木さんとAさんはすれ違うこととします。
移動方法は全部でいくつかというと、佐々木さんの移動先は3通り、Aさんは2通り、誰もいない階は1通りなので、$3\times2\times1=6$通りです。すべて列挙すると次のようになります。
- 全員移動しない
- 2階の人と3階の人が入れ換わる
- 1階の人と3階の人が入れ換わる
- 1階の人と2階の人が入れ換わる
- 1階の人が2階に、2階の人が3階に、3階の人は1階に移動
- 1階の人が3階に、3階の人が2階に、2階の人は1階に移動
(a)の移動方法を3回繰り返して元の位置のままなのは明らかですね。
(b)の移動方法を3回繰り返すと
| 初期位置 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | |
|---|---|---|---|---|
| 3階 | 誰もいない | Aさん | 誰もいない | Aさん |
| 2階 | Aさん | 誰もいない | Aさん | 誰もいない |
| 1階 | 佐々木さん | 佐々木さん | 佐々木さん | 佐々木さん |
(e)はすでに考えたので、次は(f)を考えます。
| 初期位置 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | |
|---|---|---|---|---|
| 3階 | 誰もいない | 佐々木さん | Aさん | 誰もいない |
| 2階 | Aさん | 誰もいない | 佐々木さん | Aさん |
| 1階 | 佐々木さん | Aさん | 誰もいない | 佐々木さん |
ということで、同じ移動を3回繰り返したとき、元に戻る移動方法は
・全員移動しない
・1階の人が2階に、2階の人が3階に、3階の人は1階に移動
・1階の人が3階に、3階の人が2階に、2階の人は1階に移動
の3つとなりました。うん、まあそりゃそうか。
では、ショッピングモールの階数を増やすとどうなるでしょうか(階数に応じて人数も増やす)。階数が増えると移動方法をすべて列挙するのがガチでエグいため、考え方に工夫が必要になります。高校数学レベルの解答が準備できていないですが、よければ考えてみてください。
考えている問題は「
例えば、6階のショッピングモールで考えると、1→3→5→1などの巡回(2,4,6階の人は動かない)だけでなく、「1→3→5→1と2→4→6→2の巡回を同時に行うもの」も3回で元に戻ります。
トム・ブラウン「コール」
ラストイヤーのトム・ブラウン。相変わらずぶっ飛んだネタで最高でした。
「NIGHT OF FIRE」「FIRE!バキュン!」
では、数学チェックです。今回のトム・ブラウンの漫才に数学的示唆なんてあるのでしょうか…?
いや、なくはないです。個人的に考えたくなる部分はみちおさんのボケが何通りあるかについてです。
「FIRE!バキュン!」
「シャンパンシュー」
「ガッシャンベッシャン」
と書かれたカードがそれぞれ1枚ずつあり、
「シュポン」
「コン」
と書かれたカードがそれぞれ5枚ずつある。みちおさんはこの合計14枚のカードから何枚か選び、1列に並べることを考えている。ただし、並べ方は以下のルールをみたすものとする:
- 「ガッシャンベッシャン」の後に「シャンパンシュー」を並べることはできない。
- 「FIRE!バキュン!」の後に「NIGHT OF FIRE」「シャンパンシュー」「シュポン」を並べることはできない。
- 任意の「コン」のカード$K$に対して、$K$より前に並んでいる「シュポン」の枚数を$x$、$K$および$K$より前に並んでいる「コン」の枚数を$y$としたとき、$x \geqq y$となるように並べる。例えば、「シュポン」「コン」「シャンパンシュー」「コン」「シュポン」「NIGHT OF FIRE」「ガッシャンベッシャン」「FIRE!バキュン!」は条件をみたさない。なぜなら前から4枚目の「コン」に注目すると、$x=1$,$y=2$となるからである。
要するに、(1)は逆順になったら変なものを除いています。
(2)は「○んだら自発的な行動ができない」というルールです(トム・ブラウンの唯一の秩序な気がしたのでルールに入れました)。「コン」や「ガッシャンベッシャン」は受け身なので○んでもOKとします。
(3)は少しややこしいですが、小学生の頃になぜか流行る「『溜め』と『かめはめ波』をする手遊び」をご存知でしたらそれと同じようなルールです(溜めずに打つなってこと)。
以上の問題設定を踏まえて、こんな問題を作ってみました。
- 「NIGHT OF FIRE」「FIRE!バキュン!」「シャンパンシュー」「ガッシャンベッシャン」のカードをそれぞれ1枚ずつ選んだとする。この4枚のカードを、みちおルールをみたすように1列に並べたときの総数を求めなさい。
- 「シュポン」を5枚、「コン」を5枚選んだとする。この10枚のカードを、みちおルールをみたすように1列並べたときの総数を求めなさい。
- 「NIGHT OF FIRE」「FIRE!バキュン!」「シャンパンシュー」「ガッシャンベッシャン」をそれぞれ1枚ずつ、「シュポン」を5枚、「コン」を5枚選び、「FIRE!バキュン!」を一番最後に並べる。残り13枚のカードを、みちおルールをみたすように1列に並べたときの総数を求めなさい。
すべて高校数学のレベルで解けますが、(2)は初見では難しいと思います。もしよければ挑戦してみてください。以下にヒントを書いておきましたので、必要であればご参照ください。
(1) 異なる4枚のカードの並べ方(24通り)を全部調べても解けますが、「4か所のカードの配置場所から2か所選んで…」のような考え方をするとより効率のいい数え方になります。
(2) 座標平面上の格子点を通り、軸に平行な碁盤の目状の道を考えます。このとき、求める場合の数は$(0,0)$から$(5,5)$へ進む最短経路のうち、常に$x\geqq y$となるものの総数と同じになります。これを数え上げるのが一番簡単かと思います。あるいは「シュポン」と「コン」の枚数が$n$枚ずつの場合の並べ方を$n=1$から考えて、漸化式を立てる方針もあります。あと、知っていればカタラン数の公式が使えます。
(3) 13か所のカードの配置場所から「シュポン」と「コン」の計10枚の配置場所を選ぶ選び方と、(2)の結果を使います。そして、残りの3か所のカードの配置場所の選び方を考えます。
なお、みちおコール問題(3)は難易度調整のために「FIRE!バキュン!」を一番最後としました。みちおコール問題に意欲的な人はこの条件を外したらどうなるか考えてみてはいかがでしょうか。また、
「扇風機ズボズボ」
「片足をルンバに乗せて」
「鹿の駆除お願いします」
「ズドン!」
「プラスチック爆弾を(布川さんに)セット」
「カチ(布川さん爆破)」
「目覚ましをセット」
「NIGHT OF FIRE(目覚まし)」
「目覚ましの翻訳機能ON」
「炎の夜(目覚まし)」
「しじみの味噌汁シュー」
「ゴックン」
というカードを追加し、
- 「FIRE!バキュン!」と「ズドン!」以降は「ゴックン」以外のみちおさんの自発的な行動(「扇風機ズボズボ」など)ができなくなる
- しじみの味噌汁を飲むことで生き返る
のような条件を課すような問題も考えられます。ここまできたらプログラミングで解いた方がよいかも。
ちなみに、発展版みちおコール問題については解答を用意していないため、質問には答えられません。ご了承ください。
数学的誤り:なし
では、トム・ブラウンの数学的誤りのチェックです。
何度も何度も録画を見直しましたが、なかったと思います…(人を撃っていいとは言ってない)。
したがって
トム・ブラウン 最終決戦進出!
まとめ
以上より、数学的な目線だけで評価すると、失格にならなかったのは以下の5組でした:
- 真空ジェシカ
- ジョックロック
- バッテリィズ
- ママタルト
- トム・ブラウン
このうち、真空ジェシカとバッテリィズには定義不足で判定ができない項目があり、ママタルトは数学的示唆がありませんでした。
ということで、自信を持って最終決戦に進出できると言えるのは、ジョックロックとトム・ブラウンとなります。
では、この2組から優勝を決めさせていただきます。
M-1グランプリ2024 数学チェック…
優勝はトム・ブラウン!
いや~前々からトム・ブラウンは数学っぽいところあると思ってたんですよね。トム・ブラウンといえば「合体」のネタですが、あれは数列$\{a_n\}$に対して
\begin{align*}
b_1 &= a_1+a_1+a_1+a_2+a_1(=4a_1+a_2)\\
b_2 &= b_1+b_1+b_1+a_3+b_1(=4b_1+a_3)\\
b_3 &= b_2+b_2+b_2+a_4+b_2(=4b_2+a_4)\\
\vdots &
\end{align*}という数列$\{b_n\}$を計算をしているのと同じですからね。$a_1$が指数関数的に増加していくのが面白い。
しかも2024年のM-1の3回戦のネタは合体のネタにマイナスの概念が登場していました。数学的にもパワーアップしていて、笑いながらも少し感動しました。
トム・ブラウン、納得の優勝です。おめでとうございます!
ちなみに、個人的に一番考察しがいのあったネタは令和ロマンの「名字」で、トム・ブラウンの「コール」と真空ジェシカの「商店街ロケ」がほぼ同率だったと思います。令和ロマンは数学的な誤りが目立ったのが残念でした。いつか数学的に正しい漫才が観れたら…と期待しています。
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thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )
参考資料
URLはいずれも記事投稿時点での情報です。
- Honda 企業情報サイト, 世界で初めて自動車用ジャイロを実用化した運転補助装置「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」を開発
- こたけ正義感, こたけ正義感のギルティーチャンネル
- M-1グランプリ 公式サイト, エントリー情報
- 斎藤毅, 線形代数の世界 抽象数学の入り口, 東京大学出版会, 2007
- Wikipedia, メンガーのスポンジ
- Wikipedia, レーニ・アルフレード