用水路の波を観察したことはありますか?小学生の私は田んぼの用水路に片手を突っ込んで水を押し、波を作って追いかけたことがあります。
ところで、用水路のような浅い水の波の運動はKdV方程式で記述できます。1895年、コルトヴェーグ(D. Korteweg)とド・フリース(G. de Vries)が定式化したのでKdVと呼ばれています。この記事ではKdV方程式の解の一つである孤立波解を求めていきます。
必要な知識とNotation
高校ではあまりやらない積分が1カ所ありますが、がすぐわかる程度の計算力があれば読めるかも?
KdV方程式の紹介
\[\partial_t u+a\partial_x^3 u+bu\partial_x u=0\]がKdV方程式の原形ですが、\[v(t,x):=\frac{b}{6\sqrt[3]{a}}u(t,\sqrt[3]{a}x)\]とおいてこれに代入すれば\eqref{k}に変形することができます。ちなみに、一般化されたKdV方程式\[\partial_t u+\partial_x^3 u+\partial_x(u^p)=0\qquad(p>1)\]に合わせたければ、係数「2」がいいですね。
KdV方程式には孤立波解という解があります。
すべての
に対して
.
孤立波解の導出
それでは孤立波解を求めてみましょう。まず、を\eqref{k}の解とすると\[\partial_t u=-c\phi'(x-ct),\quad\partial_x^3 u=\phi'''(x-ct),\quad\partial_x u=\phi'(x-ct)\]であるから、
は\[-c\phi'(x)+\phi'''(x)+6\phi(x)\phi'(x)=0\]をみたせばよいことが分かります。以後、「
」を省略して\[-c\phi'+\phi'''+6\phi\phi'=0\]と表すことにします。この式は、\[(-c\phi+\phi''+3\phi^2)'=0\]と変形できるので、
から
まで積分すると\[-c\phi+\phi''+3\phi^2=0\]が得られます(
の
を用いました)。
そして、この式にを掛けてみると…
\begin{align*}
-c\phi\phi'+\phi'\phi''+3\phi^2\phi'&=0\\
\left(-\frac{c}{2}\phi^2+\frac{1}{2}(\phi')^2+\phi^3\right)'&=0
\end{align*}となり、と
は無限遠では0に行くので\[-\frac{c}{2}\phi^2+\frac{1}{2}(\phi')^2+\phi^3=0\]を得ます。
,
より
が従うので\[\phi'=\pm\sqrt{c}\phi\sqrt{1-\frac{2}{c}\phi}\]と表せて、いわゆる変数分離形になりました。また、
,
より
,
なので
だと分かります。
両辺をで割り、0から
まで積分し、いっぱい計算します。
\begin{align*}
\pm\sqrt{c}x&=\int_0^x\dfrac{\phi'(x)}{\phi(x)\sqrt{1-\frac{2}{c}\phi(x)}}dx &&\\
&=\int_{\phi(0)}^{\phi(x)}\frac{1}{y\sqrt{1-\frac{2}{c}y}}dy &&(y=\phi(x)\text{と置換})\\
&=\int_{1/\phi(0)}^{1/\phi(x)}\frac{1}{z^{-1}\sqrt{1-\frac{2}{c}z^{-1}}}\cdot\frac{-1}{z^2}dz &&(y=z^{-1}\text{と置換})\\
&=-\int_{2/c}^{1/\phi(x)}\frac{1}{\sqrt{z^2-\frac{2}{c}z}}dz &&(\text{ちょっと計算})\\
&=-\int_{2/c}^{1/\phi(x)}\frac{1}{\sqrt{(z-\frac{1}{c})^2-\frac{1}{c^2}}}dz &&(\text{平方完成})\\
&=-\int_{1/c}^{1/\phi(x)-1/c}\frac{1}{\sqrt{z^2-\frac{1}{c^2}}}dz &&(z-\frac{1}{c}\text{を置換})\\
&=-\left[\log\left(z+\sqrt{z^2-\frac{1}{c^2}}\right)\right]_{1/c}^{1/\phi(x)-1/c} &&(\text{ドンッ!})\\
&=-\log\left(\dfrac{c}{\phi(x)}-1+\sqrt{\left(\frac{c}{\phi(x)}-1\right)^2-1}\right) &&(\text{計算})
\end{align*}
よって、
\begin{align}
e^{\pm\sqrt{c}x} &=\dfrac{c}{\phi(x)}-1+\sqrt{\left(\frac{c}{\phi(x)}-1\right)^2-1}\\
e^{\pm\sqrt{c}x}-\left(\dfrac{c}{\phi(x)}-1\right) &=\sqrt{\left(\frac{c}{\phi(x)}-1\right)^2-1}\\
\end{align}となります。両辺を2乗して、仕上げに入ります。
\begin{align}
e^{\pm2\sqrt{c}x}-2e^{\pm\sqrt{c}x}\left(\dfrac{c}{\phi(x)}-1\right) &=-1\\
2e^{\pm\sqrt{c}x}\left(\dfrac{c}{\phi(x)}-1\right) &=e^{\pm2\sqrt{c}x}+1\\
\dfrac{c}{\phi(x)}-1 &=\dfrac{e^{\sqrt{c}x}+e^{-\sqrt{c}x}}{2}\\
\dfrac{c}{\phi(x)} &=\cos\!\text{h}(\sqrt{c}x)+1\\
\dfrac{c}{\phi(x)} &=2\cos\!\text{h}^2\left(\dfrac{\sqrt{c}}{2}x\right)\\
\phi(x) &= \dfrac{c}{2}\operatorname{sech}^2\left(\frac{\sqrt{c}}{2}x\right)
\end{align}おー!孤立波の正体はだったのかー!
念のため書いておきますが、です。また、途中で双曲線関数の半角の公式を使いました。あと、
という一抹の不安がいつの間にか解消される所が好き。
まとめ

うん、何かそれっぽい。また、式の形から、高い波は波の進行速度が速いことが分かります。
こちらのリンクで孤立波を確認できます。
Solitary wave solution of KdV equation
ちなみに、1次元の非線形シュレディンガー方程式\[i\partial_t u+\partial_x^2 u=-|u|^2 u\]の定在波解\[u(t,x)=e^{i\omega t}\phi(x)\]や孤立波解\[u(t,x)=e^{i\omega t}\phi(x-ct)\]も今回やった計算と同様にして求められます。また、どんな,
に対しても孤立波は「安定」なのか?といった解析学の研究分野があります。
一応これでも波動方程式を研究していたので、この周辺の話も充実させたいと思っています。
thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )
参考文献
小澤徹「或る二階非線型常微分方程式の解の表示」http://www.ozawa.phys.waseda.ac.jp/pdf/second_ODE.pdf