「おうち数学」をしていたら,ふと気になった問題が出てきました。
まず,そもそも逆ピタゴラス数は存在するのでしょうか?フェルマーの最終定理みたいに「解ありませーん」ということはありえますからね。
おうち数学の一環として,考えてみようと思います(もちろん読者の皆さんもここでストップして解を求めていただいても構いません)
自然数解をひとつ探そう
まずは解を一つ見つけることを目標に頑張ってみます。
うーん,当てずっぽうに代入する前に,とりあえず通分してみましょうか。
\begin{equation*}
\frac{1}{x^2}+\frac{1}{y^2}=\frac{x^2+y^2}{(xy)^2}
\end{equation*}これがの形になってくれればいいのですが,もしとが互いに素だと約分ができませんねえ…(後でちゃんと証明します)
そこで,とおき,,とおいてもう一度通分チャレンジ。
\begin{equation*}
\frac{1}{x^2}+\frac{1}{y^2}=\frac{x_1^2+y_1^2}{d^2(x_1y_1)^2}
\end{equation*}これが約分できれば,もっと欲を言えば,だったらうれしいなぁと思うわけです。それをみたす自然数って…………?
ピタゴラス数じゃん!!!Oh My GCD!!!
例えばとおけば,となって,
\begin{equation*}
\frac{1}{15^2}+\frac{1}{20^2}=\frac{3^2+4^2}{5^2\cdot3^2\cdot4^2}=\frac{1}{12^2}
\end{equation*}となるから逆ピタゴラス数が見つかりました。もっと言うと,ピタゴラス数から逆ピタゴラス数を作れることが分かりました!ということで,結果をまとめます。
\begin{equation*}\frac{1}{(bc)^2}+\frac{1}{(ac)^2}=\frac{1}{(ab)^2}.\end{equation*}
当たり前ですが,との順番を入れ換えた3つ組でも逆ピタゴラス数になります。お好きな方でどうぞ。
当初は解を一つ見つけるだけでよかったのですが,ピタゴラス数は無限に存在するので実質無限個見つけちゃいました。やったね!
逆ピタゴラスの定理
ピタゴラス数といえばピタゴラスの定理,ピタゴラスの定理といえば直角三角形ですよね。先ほど述べたように,逆ピタゴラス数はピタゴラス数と密接に関係することが分かりました。
実は逆ピタゴラス数が満たす式にも幾何学的意味があります。いきなり定理を紹介してもいいのですが,なんでもないような数式に意味を見出すプロセスを味わって頂きたいので,結論は後回しにしたいと思います。
例えるなら…料理の写真をSNSに投稿してももちろんいいんだけど,料理の過程を動画にしたものも面白いでしょ?
ということで今回は,
とを辺の長さと信じて止まない一般男性(大蛇丸)が逆ピタゴラスの定理で,
優勝していくことにするわね…(元ネタをご存知ない方はコチラ)
まずはじっくりと通分するわね…
\begin{equation*}
\frac{1}{a^2}+\frac{1}{b^2}=\frac{a^2+b^2}{(ab)^2}
\end{equation*}ここで,とおけば,直角を挟む2辺が,の直角三角形と,何か関係ありそうな気がするわね…
は潜影蛇手ならぬ,潜 影 斜 辺
このとき,
\begin{equation*}
\frac{1}{a^2}+\frac{1}{b^2}=\frac{c^2}{(ab)^2}=\frac{1}{d^2}
\end{equation*}をみたす数は
\begin{equation*}
d=\frac{ab}{c}
\end{equation*}となるわね…
このに幾何学的意味を見出せるかしら…?
「辺×辺÷辺」という形なのでも辺と思うことができるわね…
そして,ということは,にをかければになるわね…
Y.A.Y.(やだぁ 当たり前じゃない やだぁ)
ところで,は縦の長さが横の長さがの長方形の面積と思うことができて,なら三角形の面積と思うことができるわね…?
それではにをかけてを作るわね…
そして半分に割ってにするわよ…
ここでを 底 辺 蛇 手,高さがの三角形の面積はになるわね…
また,直角を挟む2辺が,の直角三角形の面積はになるわね…
ということで,
を「を底辺としたときの三角形の高さ」とみなせば 完 成 ね…!!
はい,エドテン
っておい!
それ…「おうち数学」やなくて「大蛇(おろち)数学」やないかーい!
…ノリツッコミがウマすぎて,ウマになったわね(しつこい)
色々ありましたが,定理のご紹介です。
\begin{equation*}
\frac{1}{a^2}+\frac{1}{b^2}=\frac{1}{d^2}
\end{equation*}が成り立つ.
逆ピタゴラスの定理を使えば,命題1を図形的に示すことができます。
まず,斜辺を,残りの2辺を,となる直角三角形を用意します(,,はピタゴラス数)。このとき,斜辺からの三角形の高さをとすると,逆ピタゴラスの定理より,すなわちとなります。は整数とは限らないので,三角形を辺々倍して相似拡大してあげましょう。
これならはすべて自然数となるので,逆ピタゴラス数が得られました。
逆ピタゴラス数の決定
命題1によって「ピタゴラス数を用いれば」逆ピタゴラス数を得られることが分かりました。しかし,「ピタゴラス数を用いずに」逆ピタゴラス数を作れるかどうかはまだ分かりません。ピタゴラス数とは無関係に逆ピタゴラス数を作ることはできるのでしょうか?
任意の逆ピタゴラス数に対してとし,とおくと
\begin{align*}
\frac{1}{x^2}+\frac{1}{y^2}=\frac{1}{z^2}&\iff \frac{1}{(dx_1)^2}+\frac{1}{(dy_1)^2}=\frac{1}{(dz_1)^2}\\
&\iff \frac{1}{x_1^2}+\frac{1}{y_1^2}=\frac{1}{z_1^2}
\end{align*}
今から示す定理の証明が若干長いので結論から言ってしまいますと,原始逆ピタゴラス数は命題1のような形しかありません。へぇ~
この定理を証明するために,次の補題を用います。
\begin{align}
&\gcd(a,c)=1,\gcd(b,c)=1\iff\gcd(ab,c)=1\label{1}\\
&\gcd(a,b)=\gcd(a-kb,b)\label{2}
\end{align}
\begin{equation*}
\gcd(a,b,c)=1\iff\gcd(a,b)=1, \gcd(b,c)=1, \gcd(a,c)=1
\end{equation*}
()の方は明らかなので()の対偶を示す.
とが互いに素でないと仮定する.このときとに素因数が存在するので,とおくととなる.よって,はの約数であるが,は素数なのではの約数である*1.よって,,,は公約数をもつので,互いに素でない.
とが互いに素でない場合,とが互いに素でない場合についても同様に示せる.■
以上の補題を踏まえて,定理を証明してみましょう!
定理1の証明
[の証明] を原始逆ピタゴラス数とすると
\begin{equation*}
\frac{1}{x^2}+\frac{1}{y^2}=\frac{1}{z^2}
\end{equation*}であるから
\begin{equation*}
(yz)^2+(xz)^2=(xy)^2
\end{equation*}となる.ここで,,とおくと
\begin{equation}
z^2(a^2+b^2)=c^2(ab)^2\label{3}
\end{equation}となる.(いい予感がしますね…!)
仮定よりなので,とは互いに素である.よって\eqref{1}よりとは互いに素であるから,\eqref{3}によりはの倍数であり,はの倍数である.(余計なお世話ですが,のとき,4と9は互いに素なのでは9の倍数,は4の倍数になるのと同じ議論をしています)
次に,とが互いに素であることを示そう.とが互いに素であるから
\begin{align*}
\gcd(a^2+b^2, b)&=\gcd(a^2, b)=1,\\
\gcd(a^2+b^2, a)&=\gcd(b^2, a)=1
\end{align*}が成り立つ(等号は順に\eqref{2},\eqref{1}を利用している).\eqref{1}により,つまりが示された.
よって,\eqref{3}によりはの倍数であり,はの倍数であることが分かる.
以上より,,が得られる.また,はピタゴラス数であり,とは互いに素であるからは原始ピタゴラス数である.したがって,原始ピタゴラス数を用いてと表すことができた.
[の証明] 原始ピタゴラス数を用いてと表せたとすると,
\begin{equation*}
\frac{1}{x^2}+\frac{1}{y^2}=\frac{a^2+b^2}{c^2(ab)^2}=\frac{1}{(ab)^2}=\frac{1}{z^2}
\end{equation*}であるからは逆ピタゴラス数である.あとは原始的であることを示せばよい.
は原始ピタゴラス数であるから.よって,
\begin{align*}
\gcd(ac,bc,ab)&=\gcd(\gcd(ac,bc),ab)\\
&=\gcd(c\gcd(a,b),ab)\\
&=\gcd(c,ab)
\end{align*}ここで,なので\eqref{1}より.したがってが示された.■
仕上げに入ります.自然数の組が原始ピタゴラス数であることは,互いに素であり,どちらか一方が偶数となる自然数を用いて
\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
a\\
b\\
c
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
m^2-n^2 \\
2mn \\
m^2+n^2
\end{pmatrix}
\end{equation*}と表せることと同値でした(ただし,とのどちらか一方は偶数なので,を偶数とした場合の表示です)。これと定理1の合わせ技によって原始逆ピタゴラス数を決定することができます。
\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
x\\
y\\
z
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
(m^2-n^2)(m^2+n^2)\\
2mn(m^2+n^2)\\
2mn(m^2-n^2)
\end{pmatrix}
\end{equation*}と表せる.
よっしゃー!これで完全決着!!!
おうち数学のための類似問題
おうち数学の時間が余っている方のために類似問題を置いておきます。同じように類推・証明ができるのでぜひやってみてください。
\begin{equation*}
\frac{1}{x}+\frac{1}{y}=\frac{1}{z}
\end{equation*}をみたすものをすべて求めなさい.
(2) とする.
\begin{equation*}
\frac{1}{x^n}+\frac{1}{y^n}=\frac{1}{z^n}
\end{equation*}をみたす自然数の組は存在しないことを示しなさい.必要であれば,フェルマーの最終定理を用いてもよい.
\begin{equation*}
x^n+y^n=z^n\quad(n\in\mathbb{Z})
\end{equation*}の自然数解の分類は完璧ですね!
何か大事なものをすっ飛ばしている気がするけど…ま,いっか(よくない)
thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )
x⁰ + y⁰ = z⁰ をみたす正の整数xyzは存在しない
— コロちゃんぬ (@corollary2525) 2019年10月9日