「○○保存の法則」「××保存則」といった言葉を聞いたことあるでしょうか?化学なら「質量保存の法則」、物理なら「力学的エネルギー保存則」が代表的ですね。時間に関して“何かしらの量”が不変であるという法則のことを「“何かしらの量”保存則」と呼び、時間に関して不変な“何かしらの量”を「保存量」と呼びます。
数学では保存量は非線形シュレディンガー方程式やKdV方程式などといった偏微分方程式の研究に役立ちます。例えば、何か不等式評価をしてに関する極限をとるとき、
に依存しない保存量は扱いやすいのです(もっと具体的に保存量が役立つことを述べた記事は近日公開予定?)。
ということで、今回のテーマは「方程式から保存量の導出」です。計算が苦手な方でも何とか読めるように書いたつもりです。未定義語は適当に読み飛ばしてくれればと思います。それではどうぞ!
必要な知識とNotation
- 複素数の基本的な計算(
,
など)
- 合成関数の微分、積の微分、偏微分、部分積分、多重積分
の
に関する偏微分を
で表します。
(
は複素数値関数。
として積の微分をすればOK)
- ラプラシアン
- グラディエント
、特に\begin{align*}|\nabla u|^2&=\nabla u\cdot\nabla\overline{u}\\&=\sum_{j=1}^N\partial_{x_j}u\partial_{x_j}\overline{u}\end{align*}多変数が登場します。難しいようであれば1変数に置き換えても構いません。その場合、ラプラシアンは2階微分でグラディエントはただの1階微分になります。
ニュートンの運動方程式→力学的エネルギー保存則
最初はウォーミングアップということで、ニュートンの運動方程式から力学的エネルギー保存則を導いてみようと思います。
を重力加速度とし、質量
の物体が自由落下するとします。ニュートンの運動方程式により、
を時間
における物体の加速度とすると
\begin{equation*}
ma=-mg
\end{equation*}が成り立ちます。両辺に(
は時間
における物体の速度)をかけ、
であることを思い出すと
\begin{equation*}
mv\frac{dv}{dt}=-mgv
\end{equation*}となります。ここで,
(
は時間
における物体の高さ)なので
\begin{equation*}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2+mgx\right)=0
\end{equation*}が得られます。これは運動エネルギーと位置エネルギーの和が時間に依らない定数であること、すなわち力学的エネルギー保存則が成り立つことを表しています。
これから私がしたいこと、お分かりいただけたでしょうか?要するに、これから非線形シュレディンガー方程式をごちゃごちゃ計算して
\begin{equation*}
\frac{d}{dt}(\text{何かしらの量})=0
\end{equation*}といった式を導出したいのです。
非線形シュレディンガー方程式の紹介
次の非線形シュレディンガー方程式(Nonlinear Schrödinger equation)について考えます:
\begin{equation}
i\partial_t u+\Delta u+|u|^{p-1}u=0,\quad(t,x)\in\mathbb{R}\times\mathbb{R}^N.\tag{NLS}\label{n}
\end{equation}
\begin{equation*}2^* :=\begin{cases}
\dfrac{2N}{N-2} & (N\ge3)\\
\infty & (N=1,2)
\end{cases}\end{equation*}をSobolevの埋蔵定理
「この方程式の見どころは?」と言われたら、非線形項ですかね。
のとき、つまり
の場合の方程式をNLSと呼ぶことが多いですが、これをべき乗に関して一般化したものを考えています。
最後にの条件についてです。最初はあまり深く考えずに
(2階導関数まで存在し、
,
,
はすべて連続)
のとき、
(遠方での
,
の消滅)
を仮定します。最後のまとめでの条件を見直して「
が所属すべき関数空間として何がよいか」を考えていきましょう。
保存量の導出
それでは早速ですが保存量を見つけていきましょう。もう一度書きますが、この節の目標は
\begin{equation*}
\frac{d}{dt}(\text{何かしらの量})=0
\end{equation*}といった式を導出することです。
まず、\eqref{n}の両辺にをかけて積分し、少し計算します:
\begin{align*}
-\int_{\mathbb{R}^N}\overline{u}\partial_t u\,dx&=i\int_{\mathbb{R}^N}(-\overline{u}\Delta u-|u|^{p+1})dx\\
&=i\int_{\mathbb{R}^N}(|\nabla u|^2-|u|^{p+1})dx.
\end{align*}
\begin{equation*}
\int_{-\infty}^{\infty}(-\overline{u}\partial_{x_1}^2 u)dx_1=\int_{-\infty}^{\infty}(\partial_{x_1}\overline{u}\partial_{x_1} u)dx_1=\int_{-\infty}^{\infty}|\partial_{x_1} u|^2dx_1
\end{equation*}
\begin{equation*}
\operatorname{Re}\int_{\mathbb{R}^N}\overline{u}\partial_t u\,dx=0
\end{equation*}となります。
\begin{equation*}
\frac{d}{dt}\frac{1}{2}\int_{\mathbb{R}^N}|u|^2\,dx=0
\end{equation*}となり、保存量が見つかりました!
\begin{equation*}
Q(u):=\frac{1}{2}\int_{\mathbb{R}^N}|u|^2 dx
\end{equation*}を電荷と呼ぶ.
\begin{equation*}
Q(u)=\frac{1}{2}\|u\|^2_{L^2}
\end{equation*}と表せます。また、私は物理に詳しくない*3ので、この式を電荷と呼ぶ理由を知りません。「電荷の保存則」は高校の物理で学んだ覚えはありますが…。
もう一つの保存量
実はもう一つ保存量があります。今度は\eqref{n}の両辺にをかけて積分します:
\begin{equation*}
i\int_{\mathbb{R}^N}|\partial_t u|^2dx=\int_{\mathbb{R}^N}(-\Delta u-|u|^{p-1}u)\partial_t\overline{u}dx.
\end{equation*}
\begin{align*}
0&=\operatorname{Re}\int_{\mathbb{R}^N}(-\Delta u\partial_t\overline{u}-|u|^{p-1}u\partial_t\overline{u})dx\\
&=\operatorname{Re}\int_{\mathbb{R}^N}\left(\nabla u\cdot\nabla\partial_t\overline{u} - |u|^{p-1}u\partial_t\overline{u}\right)dx\\
&=\int_{\mathbb{R}^N}\left(\frac{1}{2}\partial_t|\nabla u|^2 - \frac{1}{p+1}\partial_t|u|^{p+1}\right)dx\\
&=\frac{d}{dt}\int_{\mathbb{R}^N}\left(\frac{1}{2}|\nabla u|^2 - \frac{1}{p+1}|u|^{p+1}\right)dx.
\end{align*}
保存量、見つかりましたね!
\begin{equation*}
E(u):=\int_{\mathbb{R}^N}\left(\frac{1}{2}|\nabla u|^2 - \frac{1}{p+1}|u|^{p+1}\right)dx
\end{equation*}
\begin{equation*}
E(u)=\frac{1}{2}\|\nabla u\|^2_{L^2}-\frac{1}{p+1}\|u\|^{p+1}_{L^{p+1}}
\end{equation*}と表せます。電荷と同様に、これをエネルギーと呼ぶ物理的な理由を知りません。ディリクレエネルギーと同じノリなんだろうなぁという程度の理解しかないです。
まとめ
以上より、\eqref{n}には保存量が2つあることが分かりました。
\begin{align*}Q(u)&=\frac{1}{2}\|u\|^2_{L^2}=\frac{1}{2}\int_{\mathbb{R}^N}|u|^2 dx,\\
E(u)&=\frac{1}{2}\|\nabla u\|^2_{L^2}-\frac{1}{p+1}\|u\|^{p+1}_{L^{p+1}}\\
&=\int_{\mathbb{R}^N}\left(\frac{1}{2}|\nabla u|^2 - \frac{1}{p+1}|u|^{p+1}\right)dx\\
\end{align*}
\begin{align*}
Q(u(t,x))&=Q(u(0,x)),\\
E(u(t,x))&=E(u(0,x))
\end{align*}が成り立つ.
ここで、の条件を見直しましょう。最初は
を仮定していましたが、積分はすべて有限でないと困るので
\begin{align*}
\int_{\mathbb{R}^N}|u|^2 dx &< \infty,\\
\int_{\mathbb{R}^N}|\nabla u|^2dx &< \infty,\\
\quad\int_{\mathbb{R}^N}|u|^{p+1} dx &< \infty
\end{align*}という条件も必要です。これらの条件をそれぞれ
\begin{align*}
u &\in L^2(\mathbb{R}^N),\\
\partial_{x_j}u &\in L^2(\mathbb{R}^N)\;\;(1\le j\le N),\\
u &\in L^{p+1}(\mathbb{R}^N)
\end{align*}と書き換えます。
いま、及び
は連続と仮定しているため
,
という条件は最初に仮定した
のとき、
を含んでいることが分かります。したがって,
が入るべき関数空間として
\begin{align*}
u &\in C^2(\mathbb{R}^N)\cap L^2(\mathbb{R}^N)\cap L^{p+1}(\mathbb{R}^N),\\
\quad\partial_{x_j}u &\in L^2(\mathbb{R}^N)\;\;(1\le j\le N)
\end{align*}
\begin{equation*}
H^1(\mathbb{R}^N):=\{u\in L^2(\mathbb{R}^N)\mid\partial_{x_j}u\in L^2(\mathbb{R}^N)\;(1\le j\le N)\}
\end{equation*}
また、「他にも保存量はあるの?」と疑問に思った方もいるかもしれませんが、明らかに
\begin{equation*}
S_{\omega}(u):=E(u)+\omega Q(u)
\end{equation*}は保存量です。\eqref{n}にこれ以外の保存量があるかと言われると…すみません分からないです。その代わり、KdV方程式については無限個の保存量があることが知られています。これについては結果しか知らないので近いうちに勉強したいです。
ちなみに、これが今年一発目のブログです。今年はこういう専門的な記事を多めに書きたいなあと思っています。
thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )
参考文献
*1:3次元にはあまり興味ないので次元で。笑
*2:任意のに対してある
が存在し,初期条件
をみたす\eqref{n}の解
が一意的に存在すること.
は何かしらの関数空間で,Sobolev空間
などで考えます.
*3:シュレディンガー方程式が何なのかすらちゃんと理解していません(^ω^;)