一カ月くらい前ですが、26歳になりました。わーい。「26歳」といえば最近知ったこのツイートを思い出します。
https://twitter.com/MathEdr/status/708655704513490946
平方数と立方数にぴったり挟まれる数って26だけなのか!この26に秘めた性質も、エピソードも面白い!
ちなみに、大学院卒の人にとって26歳は社会人2年目の方が多いと思うんですよね。後輩が初めてできるんですよね。先輩と後輩に初めて挟まれるんですよね。どうでもいい?あっそう。
まあ、26歳になったんだし、この事実の証明くらい知っておいてもいいだろうと思い、勉強しました。そしたらまあ、証明も面白かったです。久しぶりの代数だったんで少し難しかったですけど。内容は大学レベルですが、かなり噛み砕いて説明してみたので、もしかしたら、高校生2年生くらいでもなんとな〜く分かるかも。
方程式の導出と軽い考察
まずは「平方数と立方数に挟まれる数は26だけである」を数式を織り交ぜて表現します。これは次のようになりますね。
\begin{align}
x^2=n-1\tag{a}\label{a}\\
y^3=n+1\tag{b}\label{b}
\end{align}と表せるならば,だけである(このとき,).
ここで、\eqref{a},\eqref{b}からを消去できます。よって証明すべきことは次の定理です。
\begin{equation} y^3-x^2=2\tag{1}\label{26}\end{equation}には唯一の解があり,それは,である.
,が\eqref{26}の解であることは明らかですが、唯一であることの証明が難しそうです。まず、整数問題を解くときはとりあえず,の偶奇を判定しておいた方がよさそうです。
証明
奇数は何乗しても奇数であり,偶数は何乗しても偶数である.,のときはは奇数になってしまい,2にならない.共に偶数の場合,は4の倍数になってしまうのでやはり2にならない.したがって,,は共に奇数である.■
次に、整数問題を解くときによく使うものといえば因数分解ですね。この定理の証明も因数分解をするのですが、因数分解をする数の範囲が独特です。なんと、整数にを添加した環上で因数分解します!
について
環に馴染みのない人も読んでいるかもしれないので簡単に説明します。ある程度馴染んでいる人は飛ばしても構いません。
複素数というのは,実数,を用いて
\begin{equation*}
a+b\sqrt{-1}
\end{equation*}と表せる数のことでした*1。
それと同じ感じで,整数,を用いて
\begin{equation*}
a+b\sqrt{-2}
\end{equation*}と表せる数を考えます。このような数全体の集合をと書きます。つまり
\begin{equation*}
\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]\overset{def.}{=}\{a+b\sqrt{-2} \mid a, b\in\mathbb{Z}\}
\end{equation*}を考えます。
整数に和,差,積を考えられるのと同様に,にも和,差,そして積がちゃんと定義されています。
\begin{align*}
(a+b\sqrt{-2})\pm(c+d\sqrt{-2}) &= (a\pm c)+(b\pm d)\sqrt{-2},\\
(a+b\sqrt{-2})(c+d\sqrt{-2}) &= (ac-2bd)+(ad+bc)\sqrt{-2}.\\
\end{align*}
- とする.このとき,ある数でと表せるとき,はで割り切れるという.
- とする.このとき,どちらもで割り切れるとき,を公約数という.特に公約数がしかないとき*2,とは互いに素であるという.
そしてには次の重要な性質があります。
一意分解環の定義は一意分解環 - Wikipediaに載っています。
簡単に説明すると,例えば整数の範囲で12は
\begin{equation*}
12=2^2\cdot3
\end{equation*}と一通りの素因数分解ができます。にも素数に相当する素元というものがあって,この範囲で12を分解すると
\begin{equation*}
12=(\sqrt{-2})^4(1+\sqrt{-2})(1-\sqrt{-2})
\end{equation*}と一意的に分解ができます。このように、数の世界を変えると素数だと思っていた数が素数でなくなることがあります。
注意: 厳密には,単元とその元以外で割り切れない元を既約元といい,素元の定義は,がで割り切れるならば,またはがで割り切れることです。一般に,既約元と素元は違うものですが,一意分解環であればそれらは同値なので,少なくともこの記事内では気にする必要はありません。
\begin{equation*}
6=2\cdot 3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
\end{equation*}と2通りに分解されてしまいます。
今回は,が一意分解環であることを認めて証明していきます。
証明の概略
証明の流れをつかみやすくするため、二カ所だけ証明を後回しにしました。
証明
を式変形すると
\begin{equation}
y^3 = (x+\sqrt{-2})(x-\sqrt{-2})
\end{equation}となる.
ここで,とは上で互いに素(要証明)で,は一意分解環であるから,ある整数, で
\begin{equation}
x+\sqrt{-2} = (a+b\sqrt{-2})^3\tag{2}\label{3}
\end{equation}と表せる(要証明).
\eqref{3}の右辺を展開して,の係数に注目するととなる.(以降は標準的な整数問題です!)
よりが分かるが,のときはとなり不適.よって,,である.
\eqref{3}より
\begin{align*}
x+\sqrt{-2} &= (\pm1+\sqrt{-2})^3\\
&= \pm5+\sqrt{-2}.
\end{align*}なので.これを\eqref{26}に代入してが得られる.■
要証明の部分を除けば意外と簡単に証明できました。わーい。
要証明の部分について
証明を後回しにした部分の証明です。ここがちょっと難しいかも。
証明
とは共にで割り切れるとする.和と差を考えれば,ともで割り切れる.ここで,補題1よりは奇数だったので,とは互いに素.実際,が奇数だと\begin{equation*}
x=(a+b\sqrt{-2})\sqrt{-2}=-2b+a\sqrt{-2}
\end{equation*}を満たす整数,は無い.
よって2はで割り切れる.つまりのどれかである.のときはは2を約数にもつ.よって,は偶数なので,は偶数となる.これは補題1と矛盾する.
したがって,であり,とは互いに素である.■
\[
\delta\gamma=2\quad(\gamma\in\mathbb{Z}[\sqrt{-2}])
\]と表せます。両辺にをかけると
\[
(a^2 + 2b^2)|\gamma|^2 = 4
\]となります。ここでは正の整数なので、整数の範囲ではで割り切れます。よって、のいずれかであり、
\begin{align*}
a^2 + 2b^2=1\iff (a,b)=(\pm1, 0),\\
a^2 + 2b^2=2\iff (a,b)=(0, \pm1),\\
a^2 + 2b^2=4\iff (a,b)=(\pm2, 0).
\end{align*}よって、となりました。
\begin{equation*}
x+\sqrt{-2} = (a+b\sqrt{-2})^3
\end{equation*}と表せる.
証明
まず,は一意分解環であるから
\begin{align*}
x+\sqrt{-2} &= \alpha_1\alpha_2\alpha_3\cdots\alpha_n\\
x-\sqrt{-2} &= \overline{\alpha_1}\:\overline{\alpha_2}\:\overline{\alpha_3}\cdots\overline{\alpha_n}\\
y^3 &= \beta_1^3\beta_2^3\beta_3^3\cdots\beta_m^3
\end{align*}と素元分解ができる(はの共役を表す).ここで,とは互いに素なので,任意ので.さらに,
\begin{equation*}
(x+\sqrt{-2})(x-\sqrt{-2})=y^3
\end{equation*}だったので,つまりの因数である各はの因数に3個,あるいはの因数に3個ずつ現れる(補足:がおよびの因数とすると、互いに素であることに反する).結局とはどちらも立方数となり,の方に注目すれば
\begin{equation*}
x+\sqrt{-2} = (a+b\sqrt{-2})^3\qquad(a, b\in\mathbb{Z})
\end{equation*}と表せる.■
あとがき
ちなみに、僕が調べた中で一番古い参考書はこちらでした。
この305ページの[問題1]が今回扱った問題なのですが、ここでは2次体
\begin{equation*}
\mathbb{Q}(\sqrt{-2}):=\{x+y\sqrt{-2}\mid x, y\in\mathbb{Q}\}
\end{equation*}におけるイデアルの類数が1であることを用いて証明しているようです。イデアルとかの議論は詳しく勉強してないのでよく分からなかったですが。代数にも強くなりたい。
ここまで読んでくれた皆様ならお気づきだと思いますが、定理の主張や証明では、
\begin{equation*}
\daggerもう1人の僕\dagger
\end{equation*}が覚醒して「だ・である調」になってしまいますね。というより「です・ます調」の証明がしっくりこなかったです。
気づいたら20代後半。若者とおっさんの間を生きてます。
thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )
参考文献
- The number 26, between 25 and 27 Resolution of the diophantine equation , http://www.normalesup.org/~baglio/maths/26number.pdf
- 数26, http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/number/twentysix.htm
- ガウス整数とその応用, 高校数学の美しい物語, http://mathtrain.jp/gaussianint