Corollaryは必然に。

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謎の2つの関数を使ってガウス積分を求める

#今日の推し関数は次の2つの関数です。

\begin{align*}
f(t)&=\left(\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx\right)^{2}\\
g(t)&=\int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx
\end{align*}
どちらも$x$で積分しているので、$t$の関数となっていることにご注意ください。

式を見ただけでは「何じゃこれ?」という感じですが、なんと$f+g$は定数関数になります

命題
任意の$t\in\mathbb{R}$に対して

\begin{equation}\label{1}
\left(\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx\right)^{2} + \int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx = \frac{\pi}{4}.
\end{equation}

そして、この等式を使ってガウス積分の半分を計算できるというのが推しポイントです!

厳密なことは忘れて、\eqref{1}において$t\to\infty$とすると、
\[
\left(\int_{0}^{\infty}e^{-x^{2}}dx\right)^{2} + \int_{0}^{1}0\: dx = \frac{\pi}{4}
\]となります。$\int_{0}^{\infty}e^{-x^{2}}dx >0$なので
\[
\int_{0}^{\infty}e^{-x^{2}}dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}
\]がサクッと求まりました。

ラングドシャくらいサクサクでしたね。



では、厳密なことを思い出します。

まず、\eqref{1}が正しいことを確認します。次に、先ほど行った$t\to\infty$としたときの形式的な計算の正当化を見ていきましょう。


命題の証明

まず、$f+g$が定数関数となることを示すために$f'(t)+g'(t)=0$を示します。

\[
f(t)=\left(\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx\right)^{2}
\]の微分合成関数の微分微積分学の基本定理により
\[
f'(t)=2e^{-t^2}\int_0^t e^{-x^2}dx
\]となります。

\[
g(t)=\int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx
\]の微分は、$\varphi(x,t):=\frac{e^{-(1+x^{2})t^{2}}}{1+x^{2}}$とおくと\begin{align*}
g'(t)&=\int_0^1 \frac{\partial}{\partial t}\varphi(x,t)dx\\
&=\int_0^1 -2te^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}dx\\
&=-2e^{-t^2}\int_0^1 e^{-(tx)^{2}}t\: dx\\
&=-2e^{-t^2}\int_0^t e^{-y^{2}}\: dy\\
&=-f'(t)
\end{align*}となるので、$f+g$は定数関数だと分かりました。

ただし、最初の式変形で
\[
\frac{d}{dt}\int_0^1 \varphi(x,t)dx = \int_0^1 \frac{\partial}{\partial t}\varphi(x,t)dx
\]という微分積分の順序変更を行いました。これは積分記号下の微分と言われる計算ですが、今回は積分区間が有限なので、偏微分可能性と連続性だけ気にすれば大丈夫です。

正確には、以下の定理を使いました:

定理(積分記号化の微分 積分区間有界ver.)
$\varphi(x,t)$は$[a, b]\times[c, d]$で定義された実数値連続関数で,$t$について偏微分可能かつ$\frac{\partial \varphi}{\partial t}$も$[a, b]\times[c, d]$上で連続であるとする.このとき$t$の関数$\int_a^b \varphi(x,t) dx$は微分可能で
\[
\frac{d}{dt}\int_a^b \varphi(x,t)dx = \int_a^b \frac{\partial}{\partial t}\varphi(x,t)dx
\]が成り立つ.

次に、定数関数$f+g$がどんな値をとるのかを決定させるために
\[
f(0)+g(0)=\int_0^1 \frac{1}{1+x^2}dx
\]を計算します。これは$x=\tan\theta$と置換することで
\begin{align*}
\int_0^1 \frac{1}{1+x^2}dx &=\int_0^{\pi/4}\frac{1}{1+\tan^2\theta}\cdot\frac{1}{\cos^2\theta}\: d\theta\\
&=\int_0^{\pi/4} d\theta\\
&=\frac{\pi}{4}
\end{align*}と計算ができますね(あるいは$\tan$の逆関数を用いても計算可能)。これにて\eqref{1}の証明が完了しました。

$t\to\infty$とする

最後に、\eqref{1}の式において$t\to\infty$として
\[
\left(\int_{0}^{\infty}e^{-x^{2}}dx\right)^{2} + \int_{0}^{1}0\: dx = \frac{\pi}{4}
\]と計算してよいことの確認をします。
\[
f(t)=\left(\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx\right)^{2}
\]に関しては$t\to\infty$としても大丈夫でしょう。強いて言えば$x^2$の連続性
\[
\lim_{t\to\infty}\color{blue}{\left(\color{black}{\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx}\right)^{2}}=\color{blue}{\left(\color{black}{\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx}\right)^{2}}
\]を使っていることに注意でしょうか。極限を2乗の中に入れて行っているという意識が無かった方はぜひ気をつけてください。

補足 「連続性」にピンと来ていない方のための補足です。$f$が$a$で連続であるとは、$x_n\to a$のとき$f(x_n)\to f(a)$となることをいいます(点列を用いた連続性の定義)。この定義は
\[
\lim_{n\to\infty}f(x_n)= f\Big(\lim_{n\to\infty}x_n\Big)=f(a)
\]と書くこともできるため、連続性は極限と関数の順序変更とみることができるのです。

また、細かいことを言うと$\int_{0}^{\infty}e^{-x^{2}}dx$がそもそも存在しないと困るのですが、$t$の関数$\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx$は単調増加かつ
\begin{align*}
\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx
&< \int_{0}^{1}e^{-x^{2}}dx + \int_{1}^{\infty}e^{-x}dx \\
&= \int_{0}^{1}e^{-x^{2}}dx + \frac{1}{e}
\end{align*}なので、積分値は確かに存在します。

次に\[
g(t)=\int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx
\]の方ですが、極限と積分の順序変更ができるかどうかのチェックが必要です。つまり
\[
\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{1}\varphi(x,t)\: dx=\int_{0}^{1}\lim_{t\to\infty}\varphi(x,t)\: dx
\]としてよい条件をみたす必要があります。

その条件の一つに、次のようなものがあります。

定理(一様収束と積分
区間$[a, b]$上の連続関数列$(f_n)_n$で$f_n$が$f$に一様収束するとき,
\[
\lim_{n\to\infty}\int_a^b f_n(x)\: dx = \int_a^b f(x)\: dx
\]が成り立つ.

では、$t\to\infty$のとき$\varphi(x,t)=\frac{e^{-(1+x^{2})t^{2}}}{1+x^{2}}$が$0$に一様収束($x$に依存しない収束)することを示します。

$t$を固定したとき、$\varphi(x,t)$は$[0, 1]$で単調減少するので
\[ |\varphi(x,t)|\le\varphi(0,t)=e^{-t^2}\]となります($e^{-t^2}$は$x$に依存しない!)。よって、$t\to\infty$のとき一様に$\varphi(x,t)\to0$となります。ということで、積分と極限の順序変更が可能で、
\begin{align*}
\lim_{t\to\infty}\int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx
&= \int_{0}^{1}0\: dx \\
&= 0
\end{align*}が成り立ちます。

ラングドシャのサクサク感について

ということで
\[
\left(\int_{0}^{t}e^{-x^{2}}dx\right)^{2} + \int_{0}^{1}\frac{e^{-\left(1+x^{2}\right)t^{2}}}{1+x^{2}}dx = \frac{\pi}{4}
\]という等式において、形式的に$t\to\infty$としてよいことが確認できました。

この後のガウス積分の計算を「ラングドシャと同じくらいサクサク」と表現しましたが、計算のサクサク感とお菓子のサクサク感は数学的に未定義です(多分)。

つまり、「ラングドシャと同じくらいサクサク」という主張は数学的な主張ではなく、比喩表現に過ぎません。


…ここの厳密性いらないな?

まとめ

2つの関数を使ってガウス積分を計算する話をしました。

ガウス積分の計算と言えば、あえてガウス積分を2乗して積分を使う方法が有名で面白いですが、今回の方法は積分計算をほとんどせずに求まるのがなかなか面白いと思ったので紹介しました。

なお、この方法が有効な数学的背景や、他の積分に応用できる例まではよく分かってません。たまたまなんですかね…?

ちょっとモヤモヤが残っていますが、これを2022年のブログ書き納めとします。



今年もご愛読いただきありがとうございました。良いお年を!

thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )

参考文献