前回(1カ月前)トマエ関数の性質と私のちょっとした考察を紹介しました。
corollary2525.hatenablog.com
もう一度書いておくと、トマエ関数とは、実数に対して
\begin{equation*}T(x)=
\begin{cases}
\frac{1}{q} & (x=\frac{p}{q}\in\mathbb{Q}\;,p, q\;\text{は互いに素な整数},q>0)\\
0 & (x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q})
\end{cases}\end{equation*}
今回はトマエ関数のちょっとした応用例のご紹介です。
ほとんど至る所連続関数の合成
連続関数があったとき、その合成が連続になることは基礎の基礎です。
では、ほとんど至る所連続な関数があったとき,その合成はほとんど至る所連続になるでしょうか?
「ほとんど至る所」について
「『ほとんど』ってなんやねん」
「なんだその曖昧な言葉」
と思った方のための簡単な解説です。不要な方はこのセクションをすっとばして上記の問題を考えてみてください。
ざっくり説明すると、「成り立たない点の集まりが“スカスカ”」のとき「ほとんど至る所成り立つ」と言います。「関数はほとんど至る所連続である」と言ったら、の不連続点が“スカスカ”であることを表します。
例えば、
\begin{equation*}f(x)=\begin{cases}
0 & (x=\frac{2n+1}{2}\pi\;,n\in\mathbb{Z})\\
\tan x & (\text{otherwise})
\end{cases}\end{equation*}
不連続点は“スカスカ”ですね?よって、この関数はほとんど至る所連続と言えます。
また、ディリクレ関数
\begin{equation*}D(x)=
\begin{cases}
1 & (x\in\mathbb{Q})\\
0 & (x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q})
\end{cases}\end{equation*}の場合は不連続点が全体で、“スカスカ”ではないので「ほとんど至る所連続『ではない』」です*1。
数直線上の空間では「長さ」が定義できます。同じように、平面上では「面積」を考えることができます。「長さ」「面積」のような大きさを表す概念を一般化したものを「測度」といいます。特に、(実数全体の集合を表す記号ですが数直線をイメージするといいでしょう)における「長さ」を「1次元ルベーグ測度」と言います。
1次元ルベーグ測度で説明すると、「成り立たない点の集まりの測度が0(“長さ”が0)」のとき「ほとんど至る所成り立つ」と言います。2次元ルベーグ測度を考えるのであれば、「成り立たない点の集まりの“面積”が0」のことを表します。
厳密な定義も書いておきましょう(ルベーグ測度の定義は省略):
の例として「は点で連続である」や「」などがあります。ということで、「はほとんど至る所連続である」とは、の不連続点全体の集合の測度が0(で言えば“長さ”が0)であることを言います。
さてさて
問題に戻ります。
もし正しいと思うなら、との不連続点がスカスカであることを使って、の不連続点もスカスカであることを証明すればよいですね。…スカスカであることの証明って何や!?ざっくりした理解では証明は困難なので、厳密な定義の重要性が出てきますね。
正しくないと思うなら反例を探しましょう。例えば、不連続点が2個の関数と3個の関数を合成したら、多くても5個になりそうな気がします。このままではスカスカです。反例を探すのであれば、少なくとも不連続点が無限個の関数を考える必要がありそうです。また、の不連続点をディリクレ関数のようにしたいので、不連続点が密集している関数を考えるとよさそうですね。そんな関数、ありましたっけ…?
トマエ関数の応用例
はい、トマエ関数を使うと反例をつくれます。トマエ関数は有理数の点で不連続で、無理数の点で連続でした。有理数の集合はスカスカ*3なので、トマエ関数はほとんど至る所連続なんです。
肝心の反例ですが、トマエ関数を
\begin{equation*}f(x)=
\begin{cases}
\frac{1}{q} & (x=\frac{p}{q}\in\mathbb{Q}\;,p, q\;\text{は互いに素な整数},q>0)\\
0 & (x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q})
\end{cases}\end{equation*}
\begin{equation*}g(x)=\begin{cases}
\frac{1}{x} & (x\neq 0)\\
0 & (x=0)
\end{cases}\end{equation*}とします。どちらもほとんど至る所連続ですが、合成すると
\begin{equation*}g\circ f(x)=
\begin{cases} q & (x=\frac{p}{q}\in\mathbb{Q},\;p, q\;\text{は互いに素な整数},q>0)\\
0 & (x\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q})
\end{cases}\end{equation*}
これはすべての点で不連続です。つまり、は「ほとんど至る所連続『ではない』」のです。グラフを見ると、有理数の点が1以上離れた所へ行ってしまうので連続とは言えなさそうなことが分かると思います:
がすべての点で不連続であることの証明もしておきましょう。記号の簡略化のためとおきます。
証明
を無理数とすると,有理数の稠密性によりかつとなる点列が存在する.ここで,であるからはに収束しない.よって,は無理数で不連続.
を有理数とすると,は無理数であり,かつ.よって,は有理数でも不連続.■
ということで、がほとんど至る所連続だからといって,はほとんど至る所連続とは限らないことが判明しました。なるほどねー。
ほとんど至る所好き
全く関係ない話ですけど、「あなたのことがほとんど至る所好き」という言葉、素敵じゃないですか?もちろん「あなたのことが全部好き」も嬉しいんですけど、ありきたりな言葉ですし、自分のことちゃんと見てるのかな?って思ってしまいます。一方、「ほとんど至る所」を付け加えた場合はどうでしょう。「あなたのことがほとんど至る所好き(嫌いな所もあるけどな)」と嫌味に聞こえたあなたはまだ「ほとんど至る所」の意味を理解していません。「あなたのことがほとんど至る所好き」は、嫌な所は好きな所に比べれば目に見えないゴミと同然と言っているのです。相手の欠点を理解しつつも、全く気にしない。なんて優しい言葉なのでしょう。私のことを「あなたのことがほとんど至る所好き」と言ってくれる人、ほとんど至る所で募集中です。※ただし、ほとんど至る所かわいい人に……って私は何を書いているのだ。
thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )