Corollaryは必然に。

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自然数が選ぶ自然数総選挙

日本では政治のみならず、多くの業界で「総選挙」が行われていますね。私は投票するほど興味はないんですけど、結果だけはつい知りたくなってしまいます。そこでふと思ったんですけど、

自然数が選ぶ自然数総選挙」

を行ったら、どんな結果が起こりえるでしょうか?自然数みずから自分の順位を決める投票をするのは少し変ですが、『若手声優が選ぶ声優総選挙』という特番もあったので、いいんじゃないでしょうか?


まずはルールの設定から

ルール

  • 有権者自然数の皆さま。つまり、「1さん」「2さん」「3さん」…「5000兆さん」…と無限にいる*1
  • 投票する先も自然数の皆さま。また、自分に投票してもよい。
  • 一人一票で、複数票・白票はないものとする。


ここで記号を導入します。f(n)自然数nさんの投票先を表すことにします。例えば、\begin{equation*}f(1)=3\end{equation*}ならば、「1さんは3さんに投票」を表します。これで自然数が選ぶ自然数総選挙」は「自然数全体から自然数への関数(数列)」で表せるようになりました。やったー!



それでは、「自然数が選ぶ自然数総選挙」をしたら何が起きるのか?面白そうなものを簡単に紹介します。


全員に1票ずつ

平和な結果(?)です。これは自然数全員が自分自身に投票すれば起こり得ますね。つまり、\begin{equation*}f(n)=n\end{equation*}と投票すればよいです。今のはつまらない投票ですが、ちょっと手を加えて
\begin{equation*}f(n)=n+(-1)^{n+1}\end{equation*}という投票だったとしても全員1票ずつ入ります。試しに計算してみると分かりますが、
\begin{align*}
f(1)=2,\qquad& f(2)=1,\\
f(3)=4,\qquad& f(4)=3,\\
f(5)=6,\qquad& f(6)=5,\ldots
\end{align*}といった具合に投票されています。一つの結果に対して、投票方法は一通りとは限らないので気をつけてください。

一人だけ0票、他1票

無限に投票者がいるのに、誰にも投票されなかった人、つらそう。これは例えば\begin{equation*}f(n)=n+1\end{equation*}という投票を考えると、1さんが0票、他は1票入ります。特に意味は無いですが例えば20さんが0票になるパターンは
\begin{equation*}f(n)=\begin{cases}
n & (n<20)\\
n+1 & (n\geqq20)
\end{cases}\end{equation*}などがあります。

一人だけ無限票、他0票

†圧倒的勝利†

これは例えば全員が1さんに投票したときに起こります。つまり、\begin{equation*}f(n)=1\end{equation*}です。特に意味は無いですが例えば20さんを無限票にしたいなら\begin{equation*}f(n)=20\end{equation*}でよいでしょう。

全員に「2票」ずつ

平和な結果(?)パート2です。しかし、今度は全員に2票入ります!この辺りから有権者が無限人ならではの現象が垣間見ることができます。
\begin{equation*}f(n)=\begin{cases}
\frac{n+1}{2} & (n\text{は奇数のとき})\\
\frac{n}{2} & (n\text{は偶数のとき})
\end{cases}\end{equation*}という投票を考えてみましょう。f(n)=\operatorname{ceil}(\frac{n}{2})としても構いません*2。実際に計算すると
\begin{align*}
f(1)=1,\qquad& f(2)=1,\\
f(3)=2,\qquad& f(4)=2,\\
f(5)=3,\qquad& f(6)=3,\ldots
\end{align*}となります。「1さんは、1自身と2さんの2票」「2さんは、3さんと4さんの2票」「3さんは、5さんと6さんの2票」であることが分かります。要するに、nさんに投票するのは2n-1さんと2nさんの2票」であるようにしました。ちなみに、5000兆さんには9999兆9999億9999万9999さんと1京さんが投票してくれます。これで全員に丁度2票入ることが分かりました。

少し一般化して、全員にk票ずつ入るようにするにはどうすればいいでしょうか?場合分けで定義することもできますが、ceilを使えばf(n)=\operatorname{ceil}(\frac{n}{k})とすればいいですね。f(n)=\operatorname{ceil}(\frac{n}{5000\text{兆}})とすれば、全員に5000兆票入ります!わあ、私も5000兆票欲しい!

1位が存在しない

徳光「自然数が選ぶ自然数総選挙、第1位ッ………!いません!」

立候補者が無限なのでこういうこともあります。つまり、獲得票数の最大値が存在しないパターンです。ひとまず次の例をご覧ください。

まず、自然数たちを次のようにグループ分けします:

\begin{equation*}
1\color{red}{\mid} 2,3\color{red}{\mid} 4,5,6\color{red}{\mid} 7,8,9,10\color{red}{\mid} 11,12,13,14,15\color{red}{\mid} 16,\ldots
\end{equation*}

第1群は1人、第2群は2人、第3群は3人、…、第n群はn人になるように分けました。そして、第1群は1さんに、第2群は2さんに、第3群は3さんに、…、第n群はnさんに投票させましょう。
\begin{align*}
f(1)&=1\\
f(2)=f(3)&=2\\
f(4)=f(5)=f(6)&=3\\
f(7)=f(8)=f(9)=f(10)&=4\\
&\vdots
\end{align*}といった感じです。1さんは1票、2さんは2票、3さんは3票獲得しています。5000兆さんは

\begin{equation*}
\frac{(5000\text{兆}-1)5000\text{兆}}{2} < m \leqq \frac{5000\text{兆}(5000\text{兆}+1)}{2}
\end{equation*}

を満たす5000兆人の自然数mさんたちが投票してくれます。さて、このときの1位は誰でしょうか?最も多く獲得した人は誰でしょうか?上には上が「無限に」いるので、1位はいませんね。

補足 「…」を用いずに,閉じた式でfを表現します.f(n)の値は\frac{(k-1)k}{2}< n\leqq \frac{k(k+1)}{2}を満たす唯一の自然数kを用いてf(n)=kと表せます.このknの式で表すことが目標です.2つの不等式\frac{(k-1)k}{2}< n,\quad n\leqq \frac{k(k+1)}{2}kについて解いて一つにまとめると,\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}\leqq k<\frac{1+\sqrt{1+8n}}{2}=\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}+1となります.したがって,これを満たす自然数kは\begin{equation*}k=\operatorname{ceil}\left(\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}\right)\end{equation*}と表せます.つまり,f(n)=\operatorname{ceil}\left(\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}\right)が得られました.試しにn=1から代入すれば\begin{equation*}1, 2, 2, 3, 3, 3, 4, 4, 4, 4, 5,\ldots \end{equation*}となっていることが分かると思います.

全員に「無限票」ずつ

無限人の立候補者が無限票獲得…平和な結果ですね(震え声)。こんな不思議な現象も確かに起きるのです。早速、全員に無限票入るように有権者を誘導します。

先ほどと同じように、自然数たちをグループ分けします:

\begin{equation*}
1\color{red}{\mid} 2,3\color{red}{\mid} 4,5,6\color{red}{\mid} 7,8,9,10\color{red}{\mid} 11,12,13,14,15\color{red}{\mid} 16,\ldots
\end{equation*}

そして、そのグループの中で小さい順に番号づけしたときの数の人に投票するように仕向けます。投票先を矢印で表すとこうなります:

\begin{array}{c|cc|ccc|cccc|ccccc|l}
1 &2, &3 &4, &5, &6 &7, &8, &9, &10 &11, &12, &13, &14, &15 &16,\ldots\\
\downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow\\
1 &1, &2 &1, &2, &3 &1, &2, &3, &4 &1, &2, &3, &4, &5 &1,\ldots
\end{array}

開票されていく様子を図にしてみました:
f:id:corollary2525:20170621232905g:plain

有限で止めれば1さんが多く票を集めることになります。しかし、無限に続ければ、どんなに巨大な自然数さんもいずれ投票してくれる人が「無限に」現れます。

補足 このfも閉じた式で表したいと思います.各nに対して,\frac{(k-1)k}{2}< n\leqq \frac{k(k+1)}{2}を満たす自然数k=\operatorname{ceil}\left(\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}\right)と表せました.このkk_nと書き改めることにすると,\begin{equation*}f(n)=n-\frac{(k_n-1)k_n}{2}\end{equation*}と定義すればおしまいです.試しにn=1から代入すれば\begin{equation*}1, 1, 2, 1, 2, 3, 1, 2, 3, 4, 1,\ldots \end{equation*}となっていることが分かると思います.

一人だけ0票、他無限票

†圧倒的敗北†

1さんだけ0票にしたいならば、先ほどの投票先にすべて1を足せばよいですね。

\begin{array}{c|cc|ccc|cccc|ccccc|l}
1 &2, &3 &4, &5, &6 &7, &8, &9, &10 &11, &12, &13, &14, &15 &16,\ldots\\
\downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow\\
2 &2, &3 &2, &3, &4 &2, &3, &4, &5 &2, &3, &4, &5, &6 &2,\ldots
\end{array}

あるいは、1さんに投票している人を2さんに変更してもいいですね。

\begin{array}{c|cc|ccc|cccc|ccccc|l}
1 &2, &3 &4, &5, &6 &7, &8, &9, &10 &11, &12, &13, &14, &15 &16,\ldots\\
\downarrow & \downarrow & \downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow &\downarrow & \downarrow\\
\color{red}{2} &\color{red}{2}, &2 &\color{red}{2}, &2, &3 &\color{red}{2}, &2, &3, &4 &\color{red}{2}, &2, &3, &4, &5 &\color{red}{2},\ldots
\end{array}

今紹介した方法を応用すれば、任意のmさんを0票、他の人を無限票にできます。そうです、mさんに入っている票をm+1さんの票に変更すればいいんです。ひどい不正です。

補足 ちゃんと式で表してみましょう.各nに対して,k_n=\operatorname{ceil}\left(\frac{-1+\sqrt{1+8n}}{2}\right)とおき,\begin{equation*}f(n)=n-\frac{(k_n-1)k_n}{2}\end{equation*}と定義すれば\begin{equation*}1, 1, 2, 1, 2, 3, 1, 2, 3, 4, 1,\ldots \end{equation*}という数列を表すことは前節で説明しました.そこで,mを固定し,\begin{equation*}f_m(n)=f(n)+\delta_{m,f(n)}\end{equation*}というのを考えます.ただし,\delta_{i,j}クロネッカーのデルタを表します:
\begin{equation*}\delta_{i,j}=
\begin{cases}
1&(i=j)\\
0&(i\neq j)
\end{cases}.\end{equation*}\delta_{m,f(n)}の部分は基本的に0ですが,f(n)=mのときにだけ\delta_{m,f(n)}=1になります.つまり,書き換えると\begin{equation*}f_m(n)=\begin{cases}
m+1&(f(n)=m)\\
f(n)&(f(n)\neq m)
\end{cases}\end{equation*}となります.したがって,nに何を代入してもf_{m}(n)\neq mであること,すなわちmさんが0票であることが分かります.

まとめ

最近あったAKB48選抜総選挙にあやかって、有権者と立候補者が無限にいたときに起きる面白い現象をいくつか紹介しました。「無限」に関連する面白い話はたくさんありますが、ヒルベルトの無限ホテル」は有名です。

ヒルベルトの無限ホテルのパラドックス - Wikipedia

今回の話はこれを少し参考にして書きました。これからも何かしら無限に関連する記事を書けたらいいなぁと思っています。無限、楽しいよ!数学、楽しいよ!

そういえば数学のブログを開設して1年経ったんですけど、今回の記事で8つ目なんですよね。「オススメ記事で打線組んだ」がギリギリできないのがくやしい。でも、記事の数に関しては全然気にしていません。無限の寿命があれば、毎日投稿だろうが年8本だろうが数は同じですから…。



thank Q for rEaDing.φ(・▽・ )

*1:0さん「解せぬ」

*2:ceil(x)はxの小数点以下を切り上げる関数です。ceil(1.3)=2、ceil(3.89)=4といった具合です。